ep5. 『死と処女(おとめ)』 抵抗と貫通、魔法少女
もしかして俺だけ知らなかった事なんだろうか。
俺は何も知らなかったんだな、と自分で自分に少しウンザリした。
世の中のみんなってこういうの、誰にも教わらなくても知ってるものなのか?
俺に親がいないから俺だけ知らなかった?
俺は普通以下なんだろうか……
なんとなく不安になった俺はもう一度箱を見た。
こんな物が薬局やドラッグストアで普通に売ってるなんて今まで知らなかったよな……
もし俺に正式な彼女とか出来たら生理の時とかちゃんと気遣ってやれるだろうか?
そもそも生理ってそんなに大変な物だとは思っていなかったし……
俺は小泉に謝った。
「いやホント、そんな物とは思わなくて……悪ィ……」
まあ別に、と小泉は怒るような素振りも見せずに周囲を片付け始めた。
「一緒に貰った鉄分サプリや貼るカイロ、鎮痛剤なんかは有り難く使わせて貰ったんだが……コレだけはどうしても抵抗感があってな」
使わずにこんな場所に転がしといた私もよくなかったな、と小泉はため息をついた。
「抵抗感?」
「だってホラ、こんなプラスチックの先端とか入れるのってなんか怖いじゃないか」
そう言うと小泉はさっきの箱を紙袋に仕舞った。
そういうものなんだろうか。
俺は不意に座敷牢での小泉の様子を思い出した。
俺を殺しに掛かる勢いで物凄い抵抗をしてきたよな……
やっぱ女にとって貫通したりされたりって嫌なものなんだろうか。
まあ、あんま気分のいいものじゃないのかもしれないな。
俺もさっき『痔の時とかにいいんじゃないか?』って言われて冗談じゃねぇって思ったし。
急に言われても怖いよな。
まあ、それはともかくだ、と小泉は改めて俺の顔を見る。
「探していたのはこれだ」
小泉はピンク色のキラキラしたコンパクトのような玩具を取り出した。
プリキュア的な何かだろうか。
女児向けのアニメに出てきそうな、魔法少女っぽいキャラが持ってそうなアイテムだった。
「何だそれ?コレクション自慢か?」
俺にアニメのグッズやアイテムを見せられても価値とか判らんのだが。
そうじゃあない、と言いながら小泉はキラキラしたコンパクトを開ける。なんだ?変身でもするのか?
コンパクトの中には例のゴムが入っていた。
「佐藤、お前は前回と前々回に使って所持数が減ってるだろう?」
補充しとかないとな、と小泉は取り出したゴムを2個、俺に手渡してくる。
いやいやいや……
「何でこんなのに入れてんだよ。意味わかんねぇよ」
こんな凶悪な魔法少女のコンパクト見た事ねぇぞ?
てか、こんなキラキラのコンパクトに入れる必要あるか?
「は?カモフラージュに決まってるだろうが。絶対に中身を悟られてはならんからな」
小泉は若干得意げに言う。
てか、何でそこで得意げなんだよ。意味わかんねぇよ。
「今回はここで受け渡す事になったが……美術準備室での受け渡しも想定してだな。このケースだとまさか中にゴムが入ってるとは誰も思わんだろう?」
確かにそうかもしれねぇけどよ……
小泉が重度の限界オタクなのは学校でも有名だった。
その小泉がアニメの魔法少女っぽいコンパクトを持っていたとしても誰も不思議に思わないだろうし。
てか、そんなに頻繁にリロードする事を想定してんのか?
え?そんなにハイペースで使うことってあるか?
俺は小泉から新しくゴムを2個受け取り、銀色の缶の中に入れた。
もしかして、コレを使う局面が近いって事なんだろうか……
俺は全く嬉しくない気分で一杯になった。
複雑だよな……またコレを使う事になるのか?




