ep5. 『死と処女(おとめ)』 多重構造の呪い
あああああ!なんか許せねぇ!
は!????
ズルくね!??
俺は思わず叫んだ。
「何だよそれ!?ソイツっていいトコ取りじゃねぇか!?」
意味わかんねぇ。
俺ばっかり後悔したり罪悪感に苦しんだりしんどい思いしてねぇか!?
そんなんアリなのか?
自分ばっかり女とセッ◯スしてメリットだけ享受してデメリットやリスクを背負ってんのは全部俺じゃねぇか。
フツフツと怒りが湧き上がる。
まあ待て、と小泉が俺を嗜める。
「あくまでも仮説だと言ったじゃないか。まだそうと決まった訳じゃあない」
「けどさ、“行為してる最中に意識のある俺”がいる訳だろ?不公平じゃねぇか」
どう考えても納得いかない。
俺ばっかり貧乏くじだ。
「落ち着けと言ってるだろうが」
小泉は呆れたようにもう一度言った。
「確かに“もう一人のお前”ではあるかもしれないが……味方とは限らんだろう」
「どういう事だ?」
小泉の言ってることがよく分からない。
「つまりだ、お前は呪いの力によってこの奇妙な能力を得ている……」
と、言うことはだな、と小泉は床に投げ散らかされた衣類を漁り始めた。
着替えか?というか服ぐらいキチンと畳んで仕舞えよ。床に投げるな小泉。汚部屋にも限度ってモンがあるだろ。
「“行為中に意識のあるお前”は呪いの術者側のコントロール下に置かれていてもおかしくはないだろう」
散らかった床からジャージの上着を引っ張り出した小泉が呟く。
「敵のコントロール下?」
あのデスゲームの主催者を気取った狐面か?
或いは別の人物?
どっちにしたって俺には関係なかった。
悔しい。
そっちがなんで俺じゃねぇんだよ!
俺だって罪悪感も後悔も後始末も何もかも無しでお膳立てしてもらってやりたい放題セッ◯スしてみたいわ!
マコトの時といい、花園リセ・諸星キクコ(一回目)の時だってそうだ。
苦労して女子たちとの距離を縮めたり関係性を築いて行為出来るような位置まで持って行ったのって俺の功績じゃね?
そこの美味しい所だけを全部、掻っ攫って行くヤツがいるんだぜ?
卑怯じゃねぇか。
どう考えても納得が行かなかった。
「しかしまあ、今回の件については何とも結論が出せないがな」
小泉は再び床に散乱した物の中から何かを探し始めた。
今度はジャージの下を探してんのか?ちゃんと畳んでおかないからそうなるんだ。
「じゃあ、今回のコレって夢とも時間が戻ったとも判別が付かないってコトか?」
現段階ではそうなるな、と小泉は頷く。
結局ここに来た意味って無かったんじゃねぇか。
俺は頭を抱えた。
特大級の羞恥プレイを自ら実行しただけに終わった気がする。
俺ってなんなんだろう。
これじゃまるで[副担任の女教師に夢精の報告に来た性欲旺盛な男子中学生]じゃねぇか。
何やってるんだ俺は……
俺はふと先日の母親の姿を思い出す。
俺がしっかりしなくてどうするんだ。
このフザけた呪いを解いて、どうにか母親を助けなきゃいけない。
それが出来るのは俺しか居ないんだよ。
しっかりしないと敵の思う壺かもしれない。
そもそも呪いを解かない限りは俺本人・・・は一生セッ◯ス出来ねぇって事だよな。
もう一人の俺に全部その機会も意識も奪われちまう。
呪いを解かないと一生童貞な訳か。フザけやがって。クソが!
それに。
”もう一人の俺“が敵の術者側に付いているのだとしたら、いずれソイツとも対決しなきゃいけねぇかもな。
自分の敵は自分なのか?
なんか気味が悪いよな。
小泉は考えを巡らせる俺を横目でチラリと見るとため息をついた。
とにかくだな、と無事見つけたらしい着替えを手にした小泉は俺を指差す。
「まずは腹ごしらえだ。今日ぐらいは朝食を食わせてやるから先に社務所に行って待っていなさい」
俺は小泉から社務所の鍵を預かった。
この呪いってマジでクソだな。




