ep4. 「暴かれた世界」 陽はまた昇り繰り返す
早く帰りたいんだが。
小泉が後部座席に移動し、俺は助手席へと追いやられた。
てか、フロントガラスから丸見えだからめっちゃ困る。
見るなよ!絶対見るなよ!と喚きながら小泉が後部座席で着替える。
着替えるというのも変だな。
まあ、一回全裸になった上でバスタオルを一回巻く訳だが。
しかし、揃いも揃って裸の上に二次元アニメキャラのバスタオル巻いて車内っていう密室に居るのが罰ゲーム過ぎる。
命からがら脱出してきたとは言え、ついさっきまで謎の『デスゲーム主催者』的な狐面と対決してた訳じゃん?
呪われてるってのはいい事じゃ決して無いんだが、ちょっとした物語の主人公みたいでなんかカッコいい感じもしないでもないだろ?
けど、それがどうだ。
みっともなく敗走した挙句に狭い車内で全裸、アニメキャラのバスタオルを巻いて随分とゴキゲンな有り様じゃねぇか。
こんなイカれたカッコしてんのって世界中で俺らだけだろうな。
マジで頭おかしいよな。
頭のネジが5〜6本飛んでるテンションでないと無理な所業だ。
おかしなクスリでもキマッてなけりゃ出来ねぇよ、こんなん。
意味がわからなさ過ぎてだんだんと笑えて来る。
漫画やアニメの登場人物とかならさ、どんなピンチも危機一髪でカッコよく切り抜けてたりするじゃん?
でも現実はそうじゃねぇんだよな。
ピンチを切り抜けた結果が今の有り様じゃねぇか。
ブザマ過ぎて逆に現実感が加速してるよな。
「よし、これで大丈夫だな…」
身支度を整えた小泉が運転席に戻り、エンジンを掛ける。
ジャージの下にバスタオルを装備するという適当なアイデアは上手くいったようだった。
やっと家に帰れる。
俺は安堵した。
後部座席に俺が移動したのを確認してから小泉は車を出した。
車は市内を走って行く。
そこから後は見慣れたいつもの風景だった。
車は俺の家の玄関ギリギリに停められた。
周囲に人がいないのを確認してから慎重にドアを開け、家の中に転がり込む。
運転席の窓を開けた小泉が俺の顔を見た。
「なあ佐藤」
「は?なんだよ?」
早くシャワーを浴びたい俺は適当に返事をした。
身体が結構冷えてたからな。
「自分を大切に出来ない人間は決して他人を大切には出来ない。その事だけは良く覚えておけ」
なんだ?
意味が良くわからない。
なんのことだろうか?
俺の母親の事を言ってるのだろうか?
それとも呪いについての事なのか?
発言の真意が掴めないまま、俺はその場に立ち尽くす。
「まあいい。また学校でな」
それだけ言うと小泉は窓を閉め、車で走り去った。
意味わかんねぇな、と思いつつ俺は熱いシャワーを浴びて服を着替えた。
その後、外に出てポストを覗く。
帰宅してからの日課だが、今日は転がり込むように玄関に入ったので確認していなかった。
一通の絵葉書が届いていた。
コバルトブルーの絵の具で描かれた、空と海の風景。
転校して行った俺の親友、雪城マコトからだった。
そこには短く近況報告が添えられていた。
「ガックン、お元気ですか?こっちは彼氏が出来ました。毎日楽しくやってます」
そうか、マコト、彼氏が出来たのか、と思いつつ俺は絵葉書をちゃぶ台の上に置いた。
俺がアイツのことを好きだった世界線があったなんて今でも信じられない。
ましてや童貞を捨てただなんて。
俺の中ではアイツは悪友で親友のままだった。
別の世界線の俺が知ったらどう思うんだろうか。
ショックを受ける?
それとも祝福する?
想像すら出来なかった。
俺は誰に言うでもなく、一人で呟いた。
「ま、良かったじゃねぇか。全部さ」
この世界も人間も、変わることってあるんだな。
 




