ep4. 「暴かれた世界」 半裸の密室 その⑤
怒ってるのか?
少しの沈黙の後、小泉は興味なさげに言い放った。
「ほう。それは知らなかったな。そんなつもりだったのか?佐藤」
まあ、結果として何も出来なかったんだから別に構やしないが、と小泉は運転席の窓を少し開けた。
構やしない。
サラッと言われてしまったがそういうものなんだろうか。
小泉にとっては俺は煩く喚くガキに過ぎなくて、いちいち取り合ってなんか居られないって事なんだろうか。
子どもが癇癪を起こした程度に思われていた?
何にせよ、小泉がさほど気にしていないようなので俺は少しホッとした。
未遂とは言え、冷静に考えたら最低最悪の凶悪犯罪だからな。
それより、と小泉は思い出したように呟いた。
「私の方こそ済まなかったな。勢いで頭突きしたり急所を蹴り上げたりして」
そうだよ。
何で忘れてたんだろう。
よく考えたら結構、俺も酷い事されてね?
頭突きもされたし殴られもしたし、トドメに局部を蹴り上げられたし。
これってぶっちゃけ大丈夫なやつなんだろうか。
呪いがどうこうとか言う以前に、使い物にならなくなったら全てが終了なんだが。
「いやマジでそれな!ガチであり得ねぇし!男性機能が死んでたらどうしてくれんだよ?!」
一生使えねぇとかマジで勘弁じゃねぇか。
しかもよく考えたら俺って“普通”には一回も使ってなくね?
全部記憶も意識もトンでてさ、俺自身が普通に使ってたこと一回も無くねぇか?
マジで冗談じゃねぇぞ。
「ま、そこは大丈夫だ。心配しなくても」
小泉はまたしてもサラッと流す。
なんでそんな事がお前にわかるんだよ?
その辺がなんか意味わかんねぇんだよな。
ミラー越しに小泉を見て、俺はふとさっき考えていた事を思い出した。
「そういえばさ、センセェってジャージの下って全裸なん?擦れたりしねぇの?」
◯首とかその他とか、と言いかけたがそれより早く小泉が反応する。
「は!??」
小泉は素っ頓狂な声を上げて急ブレーキを掛ける。
後部座席に居た俺は助手席のヘッドレストに額を打ち付ける。
「ぐわ!?」
さっき頭突きされた箇所なので追加ダメージが結構痛い。
「何すんだよ?!危ねぇじゃねーか!?」
ミラー越しに小泉を見ると、両肩を手で押さえた状態でワナワナと震えていた。
「言われるまで気付かなかったのに……」
気付いたらなんか気持ち悪い!!何かゾワゾワする!!!と小泉は喚き出した。
いやいや、ノーパンノーブラだよな?
着替える時点で気付くだろうが普通。
逃げるのに必死でそれどころじゃ無かったのか?
「ジャージの裏地の感触が何か気持ち悪い!!なんか嫌だ!!!」
ぎゃあぎゃあと小泉が叫び始めた。
しまった、言うんじゃなかったと俺は今更ながら後悔した。
せめて翌日とかに揶揄ってやるべきだった。
車は山を抜けて市街地周辺に差し掛かってはいたが、まだまだ俺たちが住んでいるエリアには遠かった。
どうするんだよこれ……
小泉は運転できる状況ではなくなっていた。
緊張の糸が切れたのだろうか。
しかし、コイツに運転してもらわねぇと家には帰れない。
俺はヤケクソで小泉に提案してみた。
「じゃあさ、脱いだらいいんじゃね?それならいいだろ?」
まあ、どっちも変態じみてるよな。




