ep4. 「暴かれた世界」 半裸の密室 その③
小泉はいつも二次元にどっぷり浸かって幸せな人生を送ってるよな。
ま、話が横に逸れてしまったが、と小泉は続ける。
「お前の母親はお前を生かす為に全てを投げ打ったんだ。それなのに肝心のお前がそんな事を言ってどうするんだ?」
俺は再び黙った。
そうだよな。
認めたくもないし思い出したくもなかった。
地底湖でのあの光景。
水面に浮かんでいた俺の母親。
即身仏や人柱なんて知らない。
でも、確実にあれはこの世のものではなかった。
水面に浮かんだ色とりどりの花と白い着物の女。
俺の為に?
俺なんかの為に?
でも、そう思っちまう。
俺を生かす為だっていうのか。
「どうしてだよ?」
どうして俺の母親はあんな事を、と俺は小泉に問いかけるでもなく一人で呟いた。
死ぬことなんかなかったのに。
俺は母ちゃんさえそばに居てくれたら他に何もいらなかったんだ。
置いて行かれて一人で生き長らえるくらいなら、短くても母ちゃんと暮らせる人生を送りたかった。
俺の十四歳の誕生日に?
数えで十五になるから?
もう大人とカウントされるから?
大人ってなんだよ?
今の俺はこんなに無力なのに。
生かされる意味なんてあったのか?
俺は無意識のうちに拳を握りしめていた。
前にも言ったと思うが、と小泉は猛スピードで運転しながら再び口を開く。
「神社の記録にもあった通り、お前の母親は戌の日の安産祈願とお宮参り、七五三参りにうちの神社に来ている」
ああ、小泉はそんな事を前にも言ってたっけ。
「今のご時世、各種セレモニーをコストカットする家庭が多いんだがな。子どもに対する愛情が無いとそんな事はしないだろう?」
愛情?
そんなものが俺に対して注がれていたって言うのか。
「お前は愛されて望まれて生まれてきた存在なんだ」
だから、と小泉は続ける。
「お前は一人で勝手に生まれて来た訳じゃ無い。母親や祖父母やその他の人に愛情に生かされて来たんだ」
説教かよ。
こんな時だけ教師らしいな。
俺は正論の猛ラッシュで押し切ろうとする小泉が少し疎ましく思えた。
今だってそうだろう?お前の面倒を見てくれている兄さんが居るじゃないか?と小泉は佑ニーサンの存在を挙げた。
まあ、そうかもしれないが。
「私だってそうだ」
小泉はゆっくりとミラー越しに俺の目を見た。
「お前にはこの呪いを解く義務があるんだ」
だからなんだって言うんだろう。
俺は窓の外を見た。
説教はもう沢山だった。
お前自身がしっかりしないと何にもならないんだ。卑屈になるな。地に足を着けて自分をしっかり持て、と小泉は強調する。
「でないと、強くなっていく呪いに簡単に取り込まれてしまう」
え?初耳なんだが。




