ep4. 「暴かれた世界」 半裸の密室 その①
気になるけどさ。
まあ、だからと言って『センセェ、◯首とか大丈夫?』なんて聞くワケにもいかねぇからな。
少し考えてから、俺は窓の外を見た。
どこまで行っても山。山。山。
オールグリーンの光景が視界に次々飛び込む。
猛スピードでグネグネと曲がった山道を走り抜ける車は微妙に気持ち悪い。
酔いそうになるのな。
そんなにスピード出して必死になってさ。あのサイコな狐面から逃げようとしてんの?
早急にヤベェ現場を離れたいから?
小泉が座敷牢の中でかなり余裕ある感じに見えたのってなんだったんだ?
ああは言ってたけど本当は死にたく無かったとか?
ますます意味がわからない。
本当は死にたく無かったのに俺の提案も説得も突っぱねてたのか?
そんなに俺が信じられなかった?
俺とヤるくらいなら死んだ方がマシって言ってたよな?
やっぱりあのオタク男の方を信じて待ってたのか?
それともメイドカフェの時にも思ったけどさ、小泉はああいう男が好みなワケなのか?
まあ、第一印象はオタクキメェみたいな感じだったけどさ、意外にいい奴だったよな。
お宝のはずの新品のタオル2枚くれたもんな。
男はルックスより中身って事?
じゃあ、俺ってやっぱ全部負けてんだな。
中身とか信頼度とかでさ。
俺ってなんなん?
何もいいトコねぇんだな。
弱点と見せかけて使いようによってはスキルになるかもしれないこの“呪い”ですら、全く自分の思い通りには使えてねぇじゃねぇか。
じゃ、なにか?俺って呪いってハンデがある分、平均的な同年齢の男子より遥かに劣るスペックなのか?
考えれば考えるほど思考はループして嫌な気分になる。
「なあ?」
俺は運転中の小泉に話しかけた。
なんだ?と小泉は視線を動かさずに応える。
「俺って信頼ねぇんだな。センセェ」
「は?」
小泉が怪訝そうな顔をする。
「俺とヤるくらいなら死んだ方がマシって言ってた癖にさ、こんな爆速でアクセルべったり踏みっぱなしで逃げてんじゃん」
センセェ、やっぱ死にたくなかったんじゃね?という質問に小泉は言葉を詰まらせる。
「ホントはあのオタク男が来るって判ってて待ってたんだろ?俺が必死になってるの見て面白かった?」
俺だって死にたくねぇからガチで必死だったんだ。
小泉をなんとか説得しようとしてたのも無理矢理ヤるのって罪悪感があったからだったし。
命が掛かってるとは言え、せめて同意を得てからにしたかったんだよ。
それなのに。
小泉は助けが来るかもしれない事も、あの部屋でヤッたら死ぬかもしれねぇことも黙ってたんだな。
「センセェ、俺ってそんなに信用ねぇの?」
俺には教えてくれなかったよな。




