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ep0. 「真夏の夜の爪」 ⑰敬愛と暴力、その方向性

リア充爆発しろ。

概史の話を聞き終わった少年とマコトはしばらく黙っていた。ようやく口を開いたのが少年だった。


「お前ベタ惚れじゃね?」


呆れたように概史を見つめる。


「いや?知らんっスよ。おれそう言うの疎いし。わかんねっス」


概史は平然と嘯く。


「お前が自分の分のチョコパイ分け与えるとか有り得ねぇし。好きすぎだろ」


いつも自分の分のチョコパイを概史に与えていたのは少年だった。


いやーしかしお前ら腹据わってんな、なんかワケわかんねぇけど感心しちまったぜ、と少年は心底驚いたように呟いた。


「なんかよ、ブランキージェットシティの“赤いタンバリン”て曲あるじゃん?あれみてーだなって思ったぜ?好きになるのに理由なんてあんま要らねぇっつうかよ」


あー。赤いタンバリン!いいっスねえ!と概史は同意する。赤いタンバリンを上手に打つことも図書室の隅、一人で小公女を読んで居ることも変わらない。その感情に理由付けは必要なかった。


おれ、普段はキュウソネコカミばっか聴いてんスけどやっぱベンジーもいいっスねぇ、カッコいいっス!と概史が嬉々とし始める。


まあ俺はやっぱ一番はミッシェルなんだけどな、ぜってー神だろ、と少年はそれに乗っかる。


ミッシェルガンエレファント。


少年が心から敬愛してやまないバンドである。少年が生まれる前に既に解散しているが、概史の兄フーミンの録画していたビデオテープで観て以来すっかり心酔してしまっていた。


「やっぱよ、あの伝説の夜っつーかよ、あのMステのパフォーマンスって神がかってたよな!タトゥだ?ロシアの女子高生?小娘なんか何人束になっても叶わねぇ色気っつうかよ、男が惚れる男ってミッシェルみてぇなのなんだろうな?マジかっけぇし!ミッシェルだけはやっぱガチだな!間違いねぇよな!」


興奮気味に少年が捲し立てる。


 ロシアからやってきたと言う触れ込みの女子高生二人組アーティスト。


テレビの音楽番組の生放送。その登場に日本中がブラウン管の前で沸き立っていた。


しかし女子高生達は楽屋に立て篭もり出演を直前で拒否。進行を止めた番組を救ったのがミッシェルだった。


「リハなしセットなし歌詞字幕もなしでいきなりのぶっつけ本番だろ?オーディエンスも他の出演アーティストもタモさんも会場がヤケクソにも似た全力投球の一体感っつうか、とりあえず盛り上げとかねぇと的な使命感みてぇな免罪符でリミッターカットして極限まで湧き上がってる感覚っつぅかよ、あの時のチバさんの打ち鳴らすタンバリンが最高にカッコよくてよ、マジで日本の音楽史に残ってるだろコレ。教科書に載せるレベルだろこれ」


「アナウンサーの曲紹介を待たずにイントロ始まってたりとかなんかもう全部かっこいいっスよね。リアルで観たかったっていうか。ゾクゾクする感じっていうか」


概史も少年に応えるようにテンションを上げる。


「スタジオの空気が全部沸騰してるみてぇな熱狂っていうかよ、もうあんなの二度と観れねぇよな!マジですげえし!」


「そういやキュウソネコカミの“ビビった”のPVの一つめの硬派なロックバンドってミッシェルリスペクトっスかね?持ってるのが赤いタンバリンなのはブランキージェットシティへのオマージュっぽい気がするし」


だよな!と少年が更に勢いを増す。


「イントロの歌い出しの前にチバさんが“っしゃあああああああ!”みてぇに気合い入れてんのマジかっけーし!チバさんマジ神だし!」


「神っス!」


「Mステを救った英雄だよな!マジかっけぇ!チバさんみてぇになりてぇ!」


「英雄っス!」


「タトゥー!てめえら最大の功績は最後まで楽屋から出なかったことだ!!!」


「日本の音楽史に残るナイスバックレっスね!」


「ありがとうタトゥー!」


「ありがとうタトゥー!」


「タモさんの髪フッサフサじゃねーか!」


「タモさんの髪フッサフサ!!」


"っしゃああああああ!!!”興奮を抑えきれない少年が雄叫びを上げる。


概史も合わせてチバユウスケのタンバリンの動きを真似る。


二人が大声で騒ぎ始めて収拾が付かなくなったので不機嫌さが上限に達したマコトが音を立ててテーブルの椅子を蹴り上げる。


「は?マジ意味わかんないんだけど?うっざ、何それ?知らんし」


少年と概史が動きを止めてマコトを見る。


黒いパーカーのフードから見える不機嫌そうなマコトの眼が苛立ちを隠さずにいた。


は?ミッシェルだが?と少年はマコトを睨みつける。


 あの、ミッシェルガンエレファントっスよ。マコト先輩はこっち系聴かないんっスか?と概史がフォローを入れる。


「は?知らないし。聞いたことないしそんなアーティスト」


「……あ?」


「は?タンバリンとかだっさ」


不機嫌さを全く隠さないマコトが吐き捨てる。


「あぁ!?もう一回言ってみろよこの野郎!?」


少年が立ち上がりパイプ椅子を蹴り倒す。


「ミッシェル侮辱する奴ァテメーでも許せねぇからな?」


普段滅多にキレない少年が珍しくマコトに突っかかる。


「テメーあの世でアベさんに詫びろ!」


マコトの胸元のパーカーを少年が掴む。


「……は?きっしょ。意味わかんないし」


待ってください!ガックン先輩!マコト先輩!と慌てて概史が二人の間に割って入る。


「えっとあの、ガックン先輩はミッシェルをホントにリスペクトしてるんスよ!部屋にミッシェルのポスター貼って朝晩挨拶してしょっちゅう話しかけてるくらいにはガチ勢なんで!神なんで!ほら、マコト先輩にもそういうガチで尊敬するアーティストっているんじゃないんスか?」


概史は注意を逸らすようにマコトに話題を振り発言を引き出そうとする。

やっぱミッシェルは神。

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