ep4. 「暴かれた世界」 セッ◯スしたら殺される部屋
誰だよ。
バシャバシャと音を立てて男がこちらへ近づいて来る。
チラチラと水面に反射していた光が強くなる。
「鏡花さん!鏡花さん!!」
男が小泉の名前を呼ぶ。
鉄格子の向こうに現れたのは見覚えのある人物だった。
小太りで眼鏡を掛けたオタク風の冴えない男。
俺は確かにコイツをどこかで見た。
ぼんやりとした記憶の糸を辿る。
思い出した。
小泉がバイトしていたメイドカフェ。
そこに居た客だった。
メイドカフェの客がどうしてこんな場所に?
俺は言葉を失う。
意味がわからない。
九石さん、と小泉がゲホゲホと咳き込みながら応える。
「良かった、鏡花ちゃんが無事で」
九石と呼ばれたオタク風の男は安堵の表情を浮かべる。
いやいや、全然大丈夫じゃないんですが。見てわかんねぇのか。
むしろついさっきまで俺はコイツを殺そうとしてた訳なんだが。
俺の様子にも気付いた男はこちらに笑顔を向ける。
「ああ、君は佐藤君……だったかな?」
君も無事でよかったよ、と男はなんの疑いもない様子の表情を見せる。
いや、俺はコイツを犯そうとしてたし俺も頭突きや局所蹴りを喰らうしで何一つ無事ではないんだが。
てか、さっきから口の中の血の味が止まらない。
ずっとどっかから出血してんだろうな。
「……九石さんが来てくれるんじゃないかって思ってました」
小泉は心底ホッとしたような表情を浮かべている。
は?
どういう事?
どうしてこのオタクがここに居るんだよ?
「話は後にしよう。まずはここから出ないと」
男は大きなリュックから何かを取り出すと南京錠に挿す。
カチャカチャという音がした後、錆びた音を立てて南京錠が外れた。
「は?!マジで!?」
嘘だろ!?なんで開くんだよ!?
「昔からこういうのが得意でね。いや、それしか取り柄がないんだけども」
男は照れ臭そうにしている。
っていうか、今回は助かったけどこれって犯罪スレスレなんじゃなかろうか。
まあ、ともかく、コイツがオタクで助かった。
「早くここを出よう。水が勢いを増してる」
小泉と俺は座敷牢から出る。
水位は膝の上を通り越していた。
ちょっと待て、と小泉が呟く。
なんだ?もうここに用はねぇだろ?
小泉は座敷牢の外、通路側の壁を凝視している。
「やっぱり……何かあるな」
ちょうど頭の高さほどの位置に、二枚のお札のような和紙が貼ってあった。
何かが墨書きされているが読めない。
「九石さん、これって何か判りますか?」
小泉は男に訊ねる。
うーん、と男は首を捻る。
「蠱毒系の呪詛の札のようにも思えるな……」
鏡花さんはどう思う?と男は小泉に意見を聞く。
「私もそう思っていた所です。この部屋は明らかに術式の影響下にあった」
小泉は頷く。
「は?意味わかんねぇ。どういう事だよ?」
俺にはハナシがさっぱり見えてこない。
二人だけで話してんじゃねぇよ。クソが。
恐らくだが、と小泉は前置きしてから言った。
「多分、この部屋でセッ◯スしたら二人とも死んでいた」
え?腹上死的な?




