ep4. 「暴かれた世界」 地下の座敷牢と男女
理解が追いつかない。
ものすごい頭痛で立って居られなくなった俺は地面に膝を着いた。
目の前は真っ暗で何も見えず、酷い耳鳴りが頭に響いている。
痛みも感じず、手足は麻痺したように痺れている。
その直前。
俺は見つけてしまったんだ。
目を閉じて水面に浮かんでいる母親は胸の上で手を組んでいた。
まるで祈りを捧げているようにも思えた。
その胸の上に一輪あった赤い花。
大切に、慈しむように両手がその花に触れている。
その花には見覚えがあった。
俺が幼稚園の頃、色紙で作ったもの。
母の日のカーネーションだった。
認めたくない現実は確信に変わった。
それを他でもない母親自身によって突きつけられたような気がした。
俺の足元から全てが崩れ落ちていくような感覚。
大きな地響きと鈍い音、小泉の怒号が遠くで聞こえた。
もう何もわからなかった。
身体を強くどこかに打ちつけたような感触がした。
痛みは感じない。
俺の意識はそこで途切れた。
どれくらい時間が経っていたのだろう。
俺は眠っていたのだろうか。
ぼんやりとした意識の中で小泉の声が聞こえた。
「……目が覚めたか?」
俺は身体を起こす。
目の前には小泉しかいなかった。
俺は周囲を見渡す。
さっきまで居た場所ではないようだった。
母親の姿も狐面の姿もない。
小泉が俺を担いであの場所から離脱したのか?
まだ少し耳鳴りがする。
「……どこだ?ここ?」
辛うじて声は出せた。
さっきまでの出来事は夢だったんだろうか。
そうだな、きっと夢だ。
俺は悪い夢を見てたんだ。そうだろ?
小泉は俺の肩を揺さぶる。
「ぼんやりするな!しっかりしろ!」
まだ何も終わっちゃいない、むしろ状況は悪化してるんだ、と小泉は引き攣った声を出した。
「何が?」
事態が全く見えてこない俺には何の事かさっぱりわからない。
「さっきの狐面に斧を全力で投げたら避けられた上にここに落とされてしまったんだ」
小泉が悔しそうに呟く。
「は?投げた?斧を?」
意味がわからない。何で投げたんだよ。
「手元にあったんで、つい、な…」
いやいやいやいや。
だからって何で正体不明の奴を殺しにかかってんだよ?
斧なんか投げて相手にヒットしたら即死じゃねぇか。
もしかして小泉って俺なんか足元にも及ばねぇガチのイカレた人間なのか?
しかし、さっきの小泉の発言で引っかかったのはここだけじゃねぇ。
“落とされた”?
どう言う意味だ?
周囲を見渡した俺は絶句した。
目の前にあったもの。
それは鉄格子だった。
足元は畳が敷かれている。
どうやら俺たちは奇妙な地下の座敷牢に閉じ込められてしまったようだった。
「は?マジで意味わかんねぇ」
最悪なことに、と小泉は呟いた。
「水の流れている音がする。恐らくだが、数時間後にここは水没するな」
水没って……俺ら死ぬんじゃね?




