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ep4. 「暴かれた世界」 永遠の祝祭

埃っぽい場所は嫌いだ。

中を見た俺は更に言葉を失った。


天井や壁、柱部分には蜘蛛の巣が張り巡らされ、床には土埃が蓄積されていた。


ここ最近、人の出入りがあったとは思えない廃墟。


埃っぽい空気を吸い込んだ俺と小泉は咳き込んでしまう。


開けた扉からバッタが中に飛び込んで来る。


自然と一体化し、今や動植物や昆虫がこの神社の(あるじ)のようだった。


なんなんだここは。


どう見ても崩れかけたただの建物にしか見えなかった。


人が住んでいる気配なんて微塵も感じられない。


しかし、何かのヒントがあるのか?


手がかりが何かないか、俺と小泉はぐるりと周囲を見渡す。


木製の額に収められた図解と文章のようなものが目に入る。


劣化が進んで何が描かれているかはよく見えない。


俺は奥へと進んでいく。


床はギシギシと嫌な音を立てている。


床は特に劣化が激しいよう思えた。


『青龍神社』と書かれているのだろうか。


かつて祭りの際に使われたであろう提灯のようなものが床に転がっていた。


「なあ、ここって青龍神社って言うん?」


俺は小泉に質問する。


「そうだな。現在…いや、つい十数年前までは『清流神社』という名前で地元住民に親しまれていたらしいんだが」


太古の昔は“青龍神社“という名前だったらしい、と小泉は首を傾げる。


「ふーん。なんで改名したんだろうな」


正直なところ、俺は名前なんてどうも良かった。


それよりも、この神社と母親との関係が気になった。


「地図では”清流神社“での表記になってるし、鳥居に彫られていた文字もそうだった」


小泉は壁の上に飾られている木製の板を凝視している。


神社運営に当たっての寄贈者一覧だろうか?


村人の名前がズラズラと墨書きされている。


現代風に言うとクラファン?投げ銭的な感じなのかもしれない。


壁際に置かれた長机の上には獅子舞のような面が無造作に投げられていた。


かつて、この村が人で溢れていた時代は祭りが賑々しく開催されていたのだろう。


高齢化と過疎化が進み、村ごと消滅したなんて当時の村人からしたら考えられなかっただろうな、とぼんやりと思った。


娯楽なんてなかった時代の田舎の村のことだ。年に一度の祭りといえばとてつもないビッグイベントだったんだろうな。


なぜか、もう二度と人前でその役割を果たすことのないであろう獅子舞が急に哀れな存在に思えてくる。


かつてはコイツが祭りの象徴、主人公だったんだろう。


それが今じゃどうだ。


塗装はひび割れて剥がれ、色褪せて劣化して静かに朽ちて行くのを待っているだけのように感じられた。


お前も捨てられたんだな。可哀想に。


なんとなく親近感を覚えた俺は獅子舞に触れる。


視線を感じたような気がした俺は一瞬ビクリとしてしまう。


視線?


コイツが俺を見ている?そんな馬鹿な。


獅子舞を見つめた俺はなんとなく理解した。


ああ、コイツは打ち捨てられた訳じゃないんだな。


コイツの中で祭りはまだ終わっちゃいないんだよ。






今もなお、終わらない祝祭の中でずっと踊ってるんだ。









目を見ればわかる。コイツはまだ死んじゃいねぇ。

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