ep4. 「暴かれた世界」 待ち続けた10年と無価値な15年
もうどうでもいいんだ。
正直言って俺は心のどこかで期待してたんだ。
いつか母親が家に戻ってくるんじゃないかって。
これは誰にも言った事はない。
けど、いつ母親が帰って来てもすぐに暮らせるようにって家の中の掃除も庭の手入れも欠かさなかった。
母ちゃんがいずれ帰ってくるんじゃないかって、それは俺の願望に過ぎねぇってことぐらい解ってる。
ただの自己満足だよこんなのは。
母親は電話の一本すら寄越した事はねぇんだ。
それなのに。
俺は心のどっかでずっと待ってたし期待してた。
想像してくれよ。
“学校から帰ったら、もしかして母ちゃんが居るんじゃねぇか”って。
毎日、そんなふうに考えながら下校するんだ。
一縷の望みをかけて玄関の扉を開ける。
でも居ねぇんだ。
家には誰も居ない。
誰も居ねぇんだ。
あれから母ちゃんは一度だって帰って来た事はない。
爺さん婆さんが死んでから、真っ暗な家でいつも一人だった。
飯も一人、風呂も一人、寝るのも一人だ。
寂しくないはずがねぇだろ。
爺さん婆さんが生きてる頃も寂しかった。
物心が付いてからだからおそらく10年くらい?
そうだ、10年だな。
俺はずっと母ちゃんを待ってたんだ。
俺はこの10年間、ずっと母ちゃんの姿を探してた。
今年の俺の誕生日。
確証はないけどなんとなく“今年は母ちゃんが帰ってくるんじゃないか”って思ったんだ。
馬鹿げてるよな。
子どもじみてるって自分でも思うよ。
本当に嫌になるよな。
自分で自分が嫌いになる。
けどさ、その時の俺は本気だったんだ。
朝からそわそわして落ち着かなかった。
いつもより早く起きて家中の掃除をした。
庭の手入れもして、布団も干した。
バイト代が入ったからお茶と茶菓子の準備もした。
母ちゃんに話したいこと、聞いて欲しいことが山ほどあったんだ。
放課後はダッシュして家に戻った。
母ちゃんが家に居る気がしたんだ。
だけど。
家には誰も居なかった。
書き置きや生活費の入った封筒すらなかった。
そうだよな。
俺が勝手に期待して勝手に落ち込んでるだけなんだ。
意味なんかない。
意味なんかねぇんだ。
一年のうちで1日だけでもいいから俺のことを思い出して欲しかったなんて願望に過ぎねぇんだ。
多分、母ちゃんの中で俺の優先順位はきっと最下位なんだろう。
カフェで飲むようなドリンク一杯分以下の価値なんだろうぜ。
あらゆる物事の中で俺は最下位で、蔑ろにされて然るべき存在なんだろうな。
母ちゃんにとって俺は何の意味も持たないんだ。
きっと邪魔なんだろう。
俺が居たら不都合なんだろ?
俺が生まれて14年。
腹の中に居た時期を含めて15年くらいだよな。
母ちゃんの人生にとってこの15年って無意味で無価値だったんだな。
15年をドブに捨てさせて悪かったな。
でもそれってお互い様だろ?
俺にとってのこの人生もきっと意味なんかねぇんだ。
たまたま生きてるだけ。
ただ死ななかっただけだ。
本来はこんなことを言うべきじゃねぇって解ってるよ。
でも今はそんな気分なんだ。
もう俺のことはほっといてくれていいんだ。




