ep4. 「暴かれた世界」 大人になれない呪い
ココアシガレットってなんか美味いよな。ココアの味はしないのに。
「ばあちゃん、今日はそれを聞きに来たんだよ」
小泉は婆さんの話を遮るように言葉を被せる。
は?
どういうこと?
俺が殺される?
「まあそうゆうても、今までの忌み子とは違うんじゃろうがのう。それもどがあなもんかもよう判らんのじゃが」
ばあちゃん、と小泉が婆さんの耳元に近付き話しかける。
どうやらこの婆さんは若干耳が遠いようで近くで話さないとこちらの声が聞こえにくいようだった。
婆さんは俺の顔を真っ直ぐに見る。
「あんたぁもう何べんか行ったり戻ったりしとるんきゃあのう?」
この婆さんはどこまで知ってるんだろうか。
俺は2本目のココアシガレットを咥えながら小さく頷いた。
「はあ、そうじゃったんか。そりゃあご苦労もんじゃったのう」
よう戻りんさったのうや、と言いながら婆さんは俺に茶を勧めてくる。
ココアシガレットを噛み砕きつつ俺は茶を啜った。
「確かに好きなだけ食べていいと言ったが……流石に食べすぎじゃあないか?」
小泉が呆れながら俺が食い散らかした駄菓子の空袋の山を見る。
「育ち盛りの男子中学生に“好きなだけ食べていい”っつったらそりゃ当然の結果だろ?」
逆に俺の方がビックリだわ。当たり前じゃねーか。
「ばあちゃん、ちょっと台所借りるよ」
小泉は婆さん宅の台所を勝手に使い始める。
しばらく経って戻って来た小泉は茶碗に山盛りにされた白飯をちゃぶ台の上に置いた。
「これでも食ってろ」
小さな壺に入った梅干しもちゃぶ台に置いてある。
食えと言われたならまあ食べないこともない。
いただきます、と手を合わせてから俺は梅干しを乗せた白飯を食い始めた。
うちの死んだ婆さんも梅干しを毎年漬けてたなあ、と思うと懐かしい気分で一杯になった。
「ほいじゃがこれからどうすりゃあええんかのうや?こりゃあ今まで無かったことじゃけぇのう」
婆さんは白飯を食う俺を見ながら困ったような顔をしている。
って言うか、俺は知らん婆さん家で飯を食ってる場合だろうか。
「他にもあるけぇ食べんしゃあ」
婆さんは冷蔵庫から作り置きの惣菜や佃煮を出してくる。
ひじきとこんにゃくの煮物があったので有り難く頂く。
昆布の佃煮も美味かった。
茄子とキュウリの浅漬けも美味い。いくらでも食べられる気がした。
「おかわりいいか?」
小泉はややブチ切れながらおかわりを茶碗によそって持ってきた。
「まあええが、きょうちゃん。好きなだけ食べさせてやりゃあえかろうが」
婆さんはニコニコとして頷いた。
しかしいいのか?
俺はこの婆さんとこに来て駄菓子と飯を食うことしかしてないんだが重要な話があったんじゃなかったんだろうか。
今度は俺から婆さんに質問してみようと試みる。
「なあ婆さん、この呪いってなんなん?なんか知ってんだろ?」
婆さんは少し驚いたように目を見開く。
「なんも知らんのんじゃったらしょうがにゃあけぇ、きょうちゃんからちゃんとゆうとかんといけんで」
婆さんは小泉に向かって意味ありげに呟く。
どう言う意味だ?
「あんたぁこのままじゃったら大人になれんと死んでいってしまうけぇ、呪いを解かんといけんのんじゃ」
呪いとやらを解いたら俺は助かるのか、と俺は婆さんに問いかける。
婆さんはゆっくり頷いた。
小泉が捕捉するように説明した。
「このスエカばあちゃんもその昔、忌み子と呼ばれた存在だったんだよ」
この婆さんが?




