ep3 . 「嘘つき黒ギャルと初めての男女交際」 天国のドア
記憶が飛んでるのって辛いな。
俺だけが中途半端な記憶だけ残している。
肝心の“行為”の場面の記憶と意識だけスッポリと抜け落ちていた。
罪悪感だけが俺の中に刻み込まれていた。
本当になんとも言えない気分だった。
こんな事があるまではセックスって気持ちいい事だと思ってた。
早くヤリまくれるようになりたいって漠然と思ってたし、早く童貞なんか捨てたいって思ってた。
でも現実は違った。
記憶はないのに苦しくて罪悪感でいっぱいで、何もいいことなんてなかった。
ああ、だから呪いなんだな。
これからも俺は記憶も何もかも飛ばした状態でいろんな女とセックスする事になるんだろうな。
最中のことなんて覚えてもないし意識もない。
目隠しと耳栓された状態でシーやランド、ユニバに連れてかれても楽しくもなんともねぇだろ?多分そんな感じだ。
ロクなもんじゃねぇな。気持ち良くもなんともねぇ。オマケに捨てた童貞は戻って来てる。
俺はこんな呪いとやらを抱えて一生これから一人で生きていくのか。クソが。
母親は帰ってこねぇ。彼女もいない。バイトして食っていくので精一杯だ。
俺だけがどうして普通に生きていけないんだ?地獄じゃねぇか。
絶望的な気分になった時だった。
傘を差した小泉に後ろから声を掛けられた。
「探したぞ佐藤」
ちょっと来てくれ、と小泉が合図を送る。
また何かあるのか?
俺は心底うんざりした。
まあいいから来い、と小泉は俺の手を引っ張る。
公園前の道路には小泉の車が停まっていた。
「今日は奢るぞ。外食と行こうじゃないか」
「マジか」
車の中には小泉の甥の境内シンジと、その同級生の天宮列奈が乗っていた。
「え?どういうこと?」
「教師が受け持ちの生徒とサシで外食というのはあまり宜しくないだろうからな」
だが、複数人での“引率”であれば問題ないだろう、と小泉は少し得意げに言った。
アニメグッズやフィギュア、ぬいぐるみだらけの小泉の車は俺たちを乗せて走り、学校から離れた市内のある店舗の駐車場に停まった。
「高級店で焼肉食べ放題っていうのは無理だがな、子ども3人をここに連れて来ることぐらいは出来る」
俺は店の看板を見た。
『すたみな太郎』
初めて来る店だった。
店内に入った俺はテンションがブチ上がった。
店内の物はなんでも食べ放題だった。
焼肉はもちろん、寿司もあればラーメンもある。
ドリンクバーにスイーツバイキング、綿菓子やクレープもあった。
「これ全部食べ放題なのか?!」
信じられなかった。
「そうだとも。好きなだけ食べなさい」
寿司も焼肉も食べ放題。
こんな世界があるなんて信じられなかった。
俺は夢中になってとにかく肉を焼きまくって寿司も一杯食べた。
ケーキもプリンもたくさん食べた。
ドリンクバーでもたくさんあれこれ飲んでみた。
セルフサービスのクレープも焼くのが楽しかった。
なんだこれは。
メチャクチャ楽しい。
同行した境内シンジも天宮列奈も同じくブチ上がりテンションであれこれ食べて回っていた。
小泉は黙々と綿菓子を一人で作りながら、そんな俺たちの様子を見ているようだった。
何もかも嫌になっていた気分は全部ぶっ飛んだ。
こんなものが食べられるなら、まあ生きてんのも悪くねぇな、と少し思った。
こんな世界があるなんて知らなかった。天国じゃねぇか。




