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ep3 . 「嘘つき黒ギャルと初めての男女交際」 借りを返す

久しぶりにドンキで買い物した。

「なあ、ちょっといいか?」


9月の上旬。


放課後、俺は4組の教室前で御月を待っていた。


よう、と声を掛けると御月は不思議そうな顔をして俺を見た。


「お前は2組の……」


佐藤だけど、と俺は自分から名乗った。


「なあ、アンタって女子にエグいくらいモテるって聞いたんだけどさ」


「……?」


御月は不思議そうな顔をした。


「ビンゴゲームの景品で当たったんだけどよ、どうも柄が可愛すぎて使えねぇ」


良かったらコレ、お前とかお前の彼女で使ってくんね?と俺は量販店のビニール袋に入った物を手渡した。


「……え?」


御月は少し困惑した表情を見せた。


そうだよな、俺達は初対面だもんな。


小さめの折り畳み傘。


確かに俺には使えそうもない柄だった。


「まあ、誰か知り合いの女子にでもやってくれよ。俺はこういうの使わねぇからさ」


じゃあな、と戸惑う御月を置いて俺は足早に立ち去る。


これで全部終わった。


御月は俺のことは何も知らない。


一緒に過ごした時間も無かったことになっていた。


映画を観て泣いたこと。柿を食べたこと。夜中に酒を飲んだこと。二人で滅茶苦茶に暴れたこと。


何もかもが無くなっていた。


でもこれで良かったんだ。


御月は俺と一緒に居ない方がいい。


安堵と少しの寂しさが入り混じる。


元に戻っただけなのに。


なんでこんな気分になるんだろう。


空虚な気分に支配される。


気がつくと目の前に小泉が立っていた。


「お前、どうしたんだ?」


なんでもねぇよ、と俺は適当に返事した。


「貸した金はちゃんと返せよ。3300円だ」


バイト代が入ったら返すという約束で俺は小泉から金を借りてしまっていた。


しかし、教師でありながらトイチとは恐れ入る。


「金の貸し借りなど教育上宜しくないからな。このくらいのペナルティが無いと学習せんだろう」


「いや、金を貸してくれたはいいけど闇金バリの利息でってあり得んだろうが」


しかし貸して貰って助かったのも事実だった。


数日後。


その日の放課後はゲリラ豪雨に見舞われていた。


公園前の道路を歩くカップル。


「すみっコぐらし」の柄の小さな折り畳み傘に肩を寄せて二人で入っていたのは諸星キクコと御月レイジだった。


がぶ飲みメロンソーダを飲みながら歩く諸星キクコを見て少し笑った。


なんだよ、お前も好きなんじゃん。


諸星キクコは傘を差している隣の御月にもボトルを差し出して飲ませている。間接キスかよ。


末永く爆発しろ、と念じながら俺は遠くからその光景を見ていた。


御月がチラリとこちらを見る。俺に気付いたようだった。


相合い傘を差している御月が俺に向かって少し笑ったような気がした。


多分気のせいだろう。







全部無かったことになった。


これでいいんだ。

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