ep3 . 『夜間非行』 公衆便所
こっからは謎の文庫本の中身になってる。
『計画のない目標ってぇのはよ、ただの願い事じゃねぇか』
何かを願ってるだけじゃ何も起きねぇ、そうだろ?と少年は呟く。
彼の相棒は静かに頷く。
不良少年とその相棒。
端正な顔立ちの相棒は少年と同じ学校の生徒だった。
ここ最近の彼ら二人が綿密に計画して来た一大事が今夜、いよいよ決行されようとしていた。
「俺らは違う。今日の為にプラン練って来たもんなぁ?」
少しの緊張が二人の間に走った。
事前に調査、予想した時間帯。
黒の軽のワンボックスカーが手慣れた様子で深夜の駐車場に停まる。
田舎町、市内から少し離れた閉店後の大型リサイクルショップ。
店舗の外側に造られたトイレは公衆トイレ代わりに地元住民によく利用されていた。
深夜帯に自動車移動するDQNと呼ばれる人種が徘徊する場所としてもよく知られている場所だった。
幹線沿いにある場所とは言え、深夜帯は人通りも少ない。
少年が相棒に合図を送る。
「行くぜ、御月」
ワンボックスカーのエンジンが止まったのと同時に駄菓子屋で買った癇癪玉をY字パチンコで飛ばす。
派手な音が車の周辺に響く。
なんだ?と運転席の男がウインドウを下げて顔を覗かせる。
その僅かな窓の隙間目掛けて少年と相棒は息の合ったタイミングで爆竹を投げ込む。
うわ!?という情けない大きな悲鳴が車の中から聞こえたのを確認した二人は金属バットを持って車の前後を取り囲む。
間髪入れず、二人はフルスイングで金属バットを振り下ろす。
フロントガラスとリアガラスは派手な音を立てて砕け、車内からは絶叫が聞こえる。
フィルムが貼ってある為か、ガラスは飛散する事はなかった。
砕けたガラスは蜘蛛の巣のような様態を晒していた。
続けて二発目、三発目が振り下ろされる。
予想外の出来事にパニックになったと思しき二人組の成人男性は車内で声にならない声を情けなく上げている。
少年は助手席側、相棒は運転席側のドアに回り込み、ドアを開けようとガチャガチャとしている。
運転席側はロックされていた為開かなかったが、助手席側はノーガードだったので呆気なく開けられてしまう。
うぉお!?と助手席側の男は突然の事に理解が追いつかずただ目を白黒させている。
「どうもー。今晩は。お兄さん方ァ」
金属バットを持った少年は不敵な笑みを浮かべ男達に声を掛ける。
運転席側の男は震えながらスマホを握りしめている。
「おっとぉ。警察に通報ですかぁ?お兄さん♡」
少年はニヤニヤとしながら男達を見ている。
「……な、なんなんだよ!?お前ら!」
助手席側の男は上擦った声で叫ぶ。
「どうぞ通報でもなんでもしてよ、お兄さん方ァ」
少年は意味ありげにさらに笑みを浮かべる。
「警察来て事情聞かれたらさ、タダじゃ済まないのってお兄さん達の方じゃないの?」
少年は右手に握った金属バットで自分の肩をポンポンと叩く仕草を見せる。
「……お前ら、ホントに何なんだよ!?」
運転席の男が叫ぶ。
「俺らさ、お兄さん達に強姦された女子中学生の今カレと元カレなんスよねぇ」
相棒がギロリと車内の男二人を睨む。
「……じ、女子中学生って」
助手席の男が冷や汗を流しながら少年を見る。
「よくも山の中に連れ込んで輪姦してくれたよなあ!?あの黒ギャルだよ!?」
少年が今度は後部座席のドアをフルスイングする。
鈍く大きな音が駐車場に響き、意外にも臆病と見える車内の男達はまた悲鳴を上げた。
「あれぇ、もしかして余罪とか結構ありそうっスねぇ、お兄さんたちィ」
少年は車内の男達をもう一度見た。
”余罪“に身に覚えのありそうな男達の顔は真っ青になっていた。
校内や校外などの噂や情報を綿密に調査していた少年と相棒は裏どりもキチンと済ませている。
この二人組の男達の”余罪“の情報は予想以上にザクザクと上がってきていた。
「ねぇ、自分たちが理由なく襲撃されたって思ってんなら遠慮なく通報しちゃってくださいよ、お兄さん」
そのエネルギーを暴力的な挑発行為に全振りしていた不良少年とその相棒は身体中の血液が沸騰寸前だった。
相棒は反対側の後部座席のドアを無言で開ける。
シートにはローションとゴムの空パッケージが転がっていた。
コイツら最低最悪だな。車内くらい綺麗にしとけよ。




