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ep3 . 「嘘つき黒ギャルと初めての男女交際」 捨ててきた童貞

このページまで辿り着いてくれたヤツ、90万近くあるハナシの中でさ、なんでよりによってこの場所に来れたんだ?スゲェよな。よくここが見つけられたなってマジで思う。


みんなハナシの中身が気に入らなきゃバックして帰るだろ?なのにお前は帰らずここまで来た。どうしてだ?

(ここにはフタナリ調教とかハーレムとか異世界とか流行ってる要素が何も無ぇんだ。すまんな)


お前も俺と同じ()かを抱えてんだろ?じゃなきゃここまで残らねぇハズだ。


お前は俺と同じなんだろうな。なんか辛いんだろ?


でも来てくれてサンキュな。アンタも大概、変わり者だな。

俺はやれるだけやったつもりだ。


ベストではないがベターであったかもしれない。


これが今の俺に可能な、フル出力で出来る全部だった。


意識はぼんやりとして目の前は暗闇に包まれている。


暗闇。


俺の意識は遠のいたり近付いたりをゆらゆらと繰り返している。


身体は金縛りに遭ったように全く動かない。


ぼんやりとした思考の中で子どもの声…複数の子どもの声が聴こえて来る。


最初はボソボソとしか聴こえなかったその声がだんだんと近付いて来る。


いや、遠くかもしれない。


距離感は掴めない。


なんだ……?なんて言ってる?


それは何かの歌のようでもあった。


童謡?わらべ唄?


聞いたことのある曲だが思い出せない。


なんだ?知っている曲だと思うんだが判らない。


耳鳴りがする。


歌声はだんだんとはっきり強く、近くなってくる。


何もわからない。


どこから聴こえて来るんだ?


四方八方から子どもの声が聴こえる。


あちこちに子供は散らばっている。


どうして子どもが沢山ここに?


子どもの声は次第に大きくなってくる。


ここは保育園か幼稚園の近くなのか?


耳鳴りが更に強くなる。


頭が急激に痛くなったかと思えば、パッと解放されたように全ての感覚が元に戻った。


子どもの声も気配も消えていた。


静寂と暗闇。


至近距離、俺の耳元で誰かが囁いた。







『 後 ろ の 正 面 だ あ れ ? 』









その瞬間。


パチンと誰かが手を叩いたような音が聞こえた。


俺は目を開けた。


俺が目にしたものは天井だった。


見慣れた天井。


俺の自宅、いつもの俺の部屋だった。


俺は自宅の布団の中に横たわっていた。


周囲はしんと静まりかえっていた。


俺は布団の中でしばらくぼんやりとしていた。


まだ実感は湧かなかった。


確認するのが少し怖かった。


部屋の時計が目に入る。


午前四時。


意を決した俺は布団の横に転がっているスマホを右手で掴む。


何も思い出せないが画面を凝視する。




”9月9日 4:04“





デジタルの表示が目に映る。


乾いた笑いが漏れる。


誰だ?今笑ったのは?


俺だ。


俺は“戻って来た”のだ。


メッセージが一件来ている。


小泉からだった。


『目が覚めたら神社に来い』


ただそれだけの連絡だったが妙に安心する。


俺はゆっくりと起き、制服に着替えると小泉が巫女を務める神社に向かった。


小泉が臨時で間借りしているという境内エリア内にある離れのドアを叩く。


小泉の返事が聞こえる。


いつも夜更かししてゲーム三昧のはずの小泉は既に起きていた。


ご苦労なことだ。


俺は笑いを堪えるのに必死だった。


なぜだか急に全部が馬鹿馬鹿しく思えて来た。


『ちょっと待て』という声と共に巫女の着物姿の小泉が出てきた。


こんな時間に巫女装束でスタンバイか。


毎回巻き込まれてお気の毒にな。


離れから社務所に通された俺はもうどうでも良くなっていた。


もう全部終わった事だ。


何をしてたんだ小泉は?


またいつもの覗きまがいの調査か?


何をどう確認してもらっても構わねぇよ。


小泉に促されるまま俺は座卓の前に座る。


俺の前に正座した小泉は以前に持っていた和綴じの帳面と古びた文庫本を取り出す。


俺は座卓の上に置かれた帳面と今までとは別の文庫本をなんとなく見つめた。


ボロボロになった古びた文庫本の表紙には『夜間非行』というタイトルが付けられている。





挿絵(By みてみん)






誰がやってるのか知らんけど毎回毎回ご丁寧な呪いだな。


意を決したように深呼吸した小泉は真っ直ぐに言い放った。



「佐藤。お前は童貞を捨てて戻ってきたようだな」



ああ、と俺は頷いた。


自分(・・)で決めた事だからな」


自分(・・)で、か」


小泉は一瞬、複雑そうな表情を浮かべた後に俺に尋ねた。


「……今回は泣いたり取り乱したりしないんだな?」


全てを終えた俺は寧ろこの状況に安堵していた。


「この日に『戻って来れた』っていうこの結果だけで十分だ」


文庫本だ?記録だ?俺は興味ねぇからセンセェだけで勝手に確認でも何でもしてくれよ、と俺は大袈裟に肩をすくめてみせた。







「悪者は俺だけでいい。世界は俺抜きで回ってく。そうだろう?センセェ」


生きづらいよな。お互い。

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― 新着の感想 ―
書いていただきありがとうございます。つい最近、R15残酷な表現あり で検索し、こう言う感じのタイトルで、同じような鋭い(と言うか琴線に触れる)作品を見つけられたので、他にもないかと探していてこの作品に…
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