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ep10.『聖母と道化、その支配人』前夜祭の魔法
「八宇さん……!!」
八宇さんは息を切らせてその場に立っていた。隣には鈴木先輩の姿も見える。
「すいません八宇さん……!妊娠中なのに無理させてしまって」
俺がそう言うと八宇さんは首を振った。
「八宇は大丈夫です……!指示出しが大半で、あとはやって貰っただけですから……!」
八宇さんの横にいる花園リセがニッコリと微笑む。
「ご機嫌よう。皆様」
「え……!?」
後ろで小泉が小さく動揺しているのが伝わってきた。
「リセさんが手伝いを……!?」
俺が尋ねるとご令嬢は微笑みながら紙袋をこちらに差し出してくる。
「いいえ。わたくしだけではありませんわ。まだ、由江さんが残って作業してらっしゃるの」
作業中─────────!?
じゃあまだ衣装は完成してないんじゃないか!?
周囲にピリッとした緊張感が走る。
「衣装はほぼ仕上がってるんですけど……もうちょっとクオリティアップさせたくて────────」
八宇さんもそう言いながら紙袋をこちらに差し出してくる。
「とりあえず、今日のリハーサルにはこの臨時の衣装を着て貰おうと思って急いで持ってきたんです」




