ep10.『聖母と道化、その支配人』お姫様と従者
そして。
楽屋代わりに使っているスタッフルームから出てきたのは───────────────水森唯だった。
海のような深い色が眩しい“ブルーハワイ”の衣装を身に付けた水森唯のオーラは圧倒的なものだった。
流石というべきだろうか。
立ち居振る舞いと佇まいが既にスターの風格なんだ。
持って生まれた圧倒的な才能。
これこそが本来の水森唯だったんだ。
「……」
水森唯は俺に何も言わなかった。
言葉なんて要らない。全て目の前に立ってるだけで伝わるんだ。
「……驚いたな。まるで別人みたいだ」
俺はそう絞り出すので精一杯だった。
女子って着てるものだけでこんなに変わるのものなのか?
アニメで魔法少女なんかが変身して戦ったりするだろ?
あれってあんま意味がわかんなかったんだけど────────────だって服が変わっただけでなんか強くなってるだろ?───────────今なら理解できる。
女子ってのはメイクや服が変わるだけでこんなにも力を発揮出来るんだな。
いや。
そうじゃない。
多分だけど──────────メイクや服が元々持ってたポテンシャルを引き出してるんだ。
誰かが言ってたよな。『女の子は誰だってみんなお姫様』だって。
きっとそうなんだな。
本来の女子はみんなお姫様で─────────だけど、その力を埋もれさせたり発揮出来ずにいるんだ。
メイクや衣装でそれを引き出せる。本来のお姫様に戻ることが出来るんだろう。
俺の目の前の5人のお姫様。
俺は───────────この姫君達を舞踏会に連れて行く仕事を請け負った従者の立ち位置なんだ。




