ep10.『聖母と道化、その支配人』特訓の成果
いつになく緊迫したムードの中、メンバーがボーリング場に集まる。
この日は小泉の退勤時間に合わせて──────────────18時集合というスケジュールになっていた。
小泉が来るまでの間、各メンバーはそれぞれ単独で自主練という形になっていたのだが────────────────
それぞれの思惑を胸に、メンバーがフロア内の自分のポジションに立つ。
一番最後にその場にやって来た小泉に対し、佐々木が声を掛ける。
「お手並み拝見と行こうかしら────────────────小泉先生」
上野がビクリとした様子で小泉と佐々木を見る。
しかしなんやかんやでやっぱ佐々木はずっと小泉のことを心配してくれてたんだな。
俺が知らないだけでメンバーの団結や結束みたいなものも芽生えてたんだろう。
少しホッとした俺はCDラジカセの再生ボタンを押す。
小泉が無言で頷いた。
小泉なりに佐々木を安心させようとしてくれてるんだろう。
なかなか頼もしいじゃないか。
一曲目、『恋するサマー☆カフェ』のイントロが流れる。
ep10.『聖母と道化、その支配人』特訓の成果
誰かが深呼吸する息遣いが聞こえた。
一瞬、緊張がメンバー内に走ったように見えたが動きが始まるとそれは見事に吹き飛んだ。
肝心の小泉の動きだが─────────────コンマ何秒かうごきが出遅れたような気がしたが、それ以外はほぼ完璧に見えた。
息ぴったりに皆と一緒の動きを見せる小泉。
水森唯の表情がパッと明るくなり、センターの諸星キクコは俺に向かってウインクを飛ばす始末だ。
メンバーそれぞれも手応えを感じたんだろう。
そして見せ場のサビに差し掛かり、中央の3人の動きを引き立たせるように一歩引いた動きをする小泉。
自分のことだけじゃない。全体のことを計算した完璧な動きだ。
曲は後半に差し掛かり、そして────────────熱気もコンディションも全てを維持したまま曲が終わった。
俺がCDラジカセの停止ボタンを押した瞬間、歓声がボーリング場に響いた。




