ep3 . 「嘘つき黒ギャルと初めての男女交際」 22時、ゴムについて話し合う
いやもうコレどういう流れだよ。
「……すまない、佐藤、気付かなくて」
御月が俺の家にやって来たのは22時過ぎだった。
お前の学ラン返しにお前ん家ち行こうか?と申し出た俺に対し御月は自らこっちに来ると言ってきた。
俺はスマホを尻ポケットに、御月は自室で充電中だったので連絡は普通に取れたのは幸いだった。
連絡先を交換してすぐに電話することになるなんて思ってもみなかったが。
「上がっていけよ」
御月は少し考える素振りを見せた後に少しだけ、と呟いた。
冷蔵庫を開けるとあいにく何も飲み物はなかった。
俺は仏壇の横に積まれた箱の贈答品やお供え物の中からジュースセットの物を見つけて2本取り出した。
冷凍庫から氷を出し、グラスに入れる。
グラスに缶ジュースのグレープを開けて御月に出した。
「悪いな、冷えたの無くてよ」
御月は一瞬固まったような表情をした後にこう呟いた。
「……驚いたな、本当に一人暮らしなんだな」
まあな、でももう慣れたし、と俺はジュースを喉に流し込んだ。
お中元やお供えで色々と貰うことはあるのだが、仏壇に供えたままで自分で飲んだり食べたりはあまりしなかった。
こうして来客があった時だけ出して使ったりしていた。
「……掃除も行き届いてるんだな」
佐藤は丁寧な暮らしをしているんだな、と御月は感心したように部屋を見回して言った。
「そうでもねぇよ。バイトもあるしゴタゴタしてて最近は何も出来てねぇし」
確かにそうだった。
二学期になってから急に身の回りに色んな事が起こりすぎて掃除どころでは無くなってしまっていた。
それより、と俺は本題に入った。
「なあ、さっきお前の学ランのポケット見てめっちゃビビったんだけどよ…」
ああ、これか、と御月は元に戻った本来の自分の学ランのポケットから銀色の缶を取り出す。
「……驚いたな。佐藤、お前も同じの持ってたんだな」
御月に俺の方の缶の存在はバレていた。
「まあな。あのさ、変なこと聞くけど俺の方の缶って開けてはないよな……?」
俺は恐る恐る確認する。
「いや、見てないけど……だって同じ物だろう?」
御月はキョトンとした様子で首を傾げる。
それでいいんだよ御月。
バレてなくて良かった、と俺はホッと胸をなでおろした。
「……中に何か大事な物でも入ってたのか?」
「いや、それは……」
俺は言葉を詰まらせた。
呪われてる俺は童貞を捨てるたびに時間を戻されて、しかもプレイ内容は記録されてる上に副担任に把握されて更にコンドームの残数までチェックされてて……なんて話、誰が信じるだろうか。
そもそも俺自身だってまだ信じてないのに。
「その……カノジョと撮ったプリクラを中に貼られちゃって……恥ずかしいから見られたくなかったんだよ」
悪いな、と俺は口から出まかせを言った。
我ながら酷いデタラメだった。
カノジョと撮ったプリクラを見られたくないってどういうシチュだよ。過激なキスプリかよ。
「……そうか、お前もカノジョにこの缶貰ったんだな」
最近流行ってるんだろうか?と御月は何故か納得してくれたようだった。
「え?お前もって?御月も彼女にその缶貰ったのか?」
もっとも俺の場合はそんな彼女なんて居ないしコレを寄越してきたのは小泉だし残数は見られてるしで何もいい事はないんだが。
「……彼女が買ってきて半分づつ分けて持っておこうって言ってくれたんだ」
向こうはゴディバの缶ケースに入れて3個持ってて、と御月はしみじみと思い出したように呟いた。
「え?半分づつ?」
じゃあ、御月は一個も消費してないって事か?と俺は訊いた。
そうだな、と御月は頷いた。
俺は何故か心底ホッとした。
別に御月ならバンバン消費しててもおかしくはないんだが何故だろうか。
「……ん?逆に佐藤は既に何個か使ったのか?」
御月が気付かなくていい事に気付きやがった。
まさか、と俺は首を横に振った。
確かに俺は“コレ”を一個消費したかもしれないが記憶も無いし時間も戻っている。
結局のところ、どう転んでも自分は純度100%の童貞でしかない。
「それよりさ、御月って滅茶苦茶モテるんだろ?」
今まで何人くらいの女と付き合ったんだ?となんとなく話題を変えたくなった俺は御月の方に話を振ってみる。
「……1人」
御月が俯いたまま答える。
「え?マジで?意外と一途なんだな」
予想外だった。
女なんてよりどりみどりで好き放題選べる身分なのに実は身持ちが固いのか?
「……でももう別れたんだけどな」
「え?どうしたんだ?喧嘩でもしたのか?」
いや、と静かに首を振った御月は悲しそうに答えた。
「……振られた」
は?
御月ほどの男がフラれた!?
何か訳ありっぽい気がした俺は身構えた。
そしてこの話は長くなりそうな予感もした。
男同士でダベってるだけの話じゃねーか。
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