ep10.『聖母と道化、その支配人』宣戦布告
「……っ!」
小泉は何も言葉を発さずただそこに立ち尽くしていた。
まあそうだよな。疲れてんだろうし、急に来られて困惑してんだろう。
「……まあいいわ。はいこれ。差し入れよ」
佐々木はカウンターの上にレジ袋を置き、こちらを一瞥しながらこう言った。
「わたしはもう帰りますけど……しっかりしてくださいね────────────小泉先生」
「……!」
相変わらず小泉は黙ったまま反応はしなかった。体力的にも限界なのかもしれない。
ドアを閉める音が大きく場内に響いた。
佐々木が出て行った後、俺はカウンターの上のレジ袋を開けてみた。
いつものサンドイッチが二人分と、よく冷えたリンゴジュースのパックが二本入っている。
佐々木の奴─────────心配してわざわざ様子見に来てくれたんだな。
さっきも小泉に声掛けてったし、もしかして俺じゃなくて小泉の方を気に掛けてくれてたのか?
「なあ、センセェ。せっかく佐々木から差し入れ貰ったんだしさ。食べて終わりにしようぜ」
俺がそう声を掛けると小泉は小さく首を振った。
「いや、私はいい……」
食欲も無いんだろうか。
「これさ、佐々木ん家のパン屋のサンドイッチなんだぜ。めっちゃ美味いからちょっと食ってみろって」
俺がそう言うと───────────────小泉は俺の顔を見た後、こう言った。
「そうか……そうだな」
小泉は俺の持っているサンドイッチに手を伸ばすとそれを齧った。
「せっかくの差し入れなんだ。有り難く頂かなくてはな」




