ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜㉙
─────────────「お前!!何しにここへ来た!?」
まだ何もしていないうちから怒号のようなコールを浴びせられる。
声の主はもちろんアイツだ。
境内神司。
小泉の甥っ子だ。
いつものように赤い袴と白い着物をキッチリと着こなしている。
掃除の途中だったのだろうか。手には竹箒が握られている。
次の瞬間には竹箒が振り下ろされていそうな勢いだ。
「おいおいおい。ここの神社は参拝者に暴言吐くのかよ。」
神司は既に俺に一撃喰らわすようなモーションに入っていたが──────────水森唯の姿に気付いたのかピタリとその動きを止めた。
「……初めまして。小泉先生のクラスの水森唯です。」
あなたが小泉先生の甥っ子君?と水森唯が問いかけると神司は無言のまま竹箒を下ろした。
「……ああ、姉さんの───────────」
苦虫を噛み潰したような表情で神司は形式上の自己紹介の言葉を述べる。
「……姉さん───────────小泉鏡花の甥の境内神司です」
実は今日はお願いがあってここに来たの、と水森唯が言うと神司は無言のままこちらを見る。
「……」
相変わらず警戒されてるな。まあ、仕方ないけどさ。
少しいいかしら、と水森唯が言いかけたところで聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「あーっ!??お兄ちゃん!?」
振り返るとそこには天宮烈奈がそこに立っていた。
天宮烈奈。
神司が絶賛片想い中の女の子だ。




