ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜㉕
「……あの!八宇さん!もしよかったら───────────」
アイドルグループに入って貰えませんか、と俺は何の捻りもなく、そのままの要件を八宇さんに伝えた。
1ヶ月後のイベントでステージに立つこと、かつて水森唯の母親の所属していたアイドルグループの悲願の復活で有ること。
簡単ではあるが事情を説明する。
「……そうだったの─────────そんな事情が───────────」
困惑した様子の八宇さんは少し納得したような表情を浮かべる。
「あの……!八宇さんのルックスなら全国も目指せると思うんです──────────!」
私達と一緒にステージに立って頂けないでしょうか、と水森唯も真剣な表情で八宇さんに懇願する。
そうだよな。
俺は改めて八宇さんの姿を見る。
人妻なのが信じられないくらい華奢で可憐、そしてとてつもないオーラを放っている。
幼馴染に夢中だった筈の鈴木先輩が心を射抜かれてしまったというのも納得できる。
そして、他校の生徒からも常に注目されるほどの群を抜いたルックス。
それほどまでに八宇さんの持つ雰囲気は目の前の人間を圧倒するものだった。
誰も抗えない、引力のような魅力。
八宇さんが持って生まれたアイドル的な才能と笑顔の前で俺達はただ、立ち尽くす事しかできないんだ。




