ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜㉒
嘘だろ、と俺がポツリとこぼすと概史がいち早くそれに反応する。
「だから言ったじゃないスか。ちょっと無理があると思うんスよね」
そもそも、と概史は呆れたように続けた。
「本番1ヶ月前って普通に考えても無理ゲーじゃないスか?よっぽど猛特訓でもしないと─────────」
いやいやいや……
二人してふざけてるんじゃないのか?
俺達を揶揄ってる?
俺はチラリと撫子の方を見た。
しかし。
その眼差しは真剣そのものだった。
「……」
申し訳ないような、それでいて何処か残念そうな。
そして何よりも撫子本人の悔しそうな表情がそれを物語っていた。
「───────なあ、どうしてもダメなのか?」
どうしても諦めきれない俺はもう一度問いかける。
「歌は口パクでなんとかならなくもないし、振り付けだけ簡単にしてどうにか誤魔化せないか?」
俺がそう提案すると───────────何かを言いかけた水森唯の言葉を遮り、概史が口を開いた。
「いや。ぶっちゃけやめといた方がいいっスよ。だいたい─────────」
概史は俺の目を見て真っ直ぐにこう言い放つ。
「妥協とかしてていいんスか?先輩。これって大事なステージなんスよね?」
「……っ」
俺は黙った。概史の言うことも尤もだった。
そもそも、と概史はこう続けた。
「撫子を入れようってんなら最速でも半年、のんびりやってたら1年は必要っスから」
最悪3年くらいかかるんじゃないスか、と概史は一切ふざけていない様子でそう言い切る。
概史が言うならそうなんだろう。
どう考えても間に合わない。
全く概史の言う通りだった。そう認めざるを得ない。




