ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜(19)
「悪ィ御月!後でまた連絡すっから!」
それだけ言い残すと俺は急いで水森唯を追っかけた。
部屋を出る瞬間、やっぱりオロオロしている御月の顔を見てしまった俺は罪悪感を感じた。
どうしてこうなった?
「……おい!ちょっと待てってば!」
スタスタと一人で歩く水森唯の腕を引っ張る。
御月の家である寺の門を出て少し離れた場所だった。
「……」
水森唯は無言のまま俺を見つめている。
どうしたんだよ、と言いかけた言葉を俺は引っ込めた。
「……!」
そうか。
なんで俺はわからなかったんだろう。
水森唯の表情を見た俺はそれを察した。
ショックを受けて無いはずがないんだ。
[スタァ☆レモネイド]に対して人一倍どころか世界一思い入れがあるのが水森唯じゃないか。
降って湧いたような再結成という夢のような企画に飛び乗ったのはいいが────────────まさか他にセンター希望者が出てくるなんて想定外だったんじゃないか?
いや。
想定はしていたかもしれない。
だけど、思った以上に早期にその話が出てしまったことに困惑は隠せないってところか?
「……佐藤君」
佐藤君はどう思う?とおもむろに質問された俺は───────────咄嗟に言葉を返せないでいた。
「どうって……何がだよ」
はぐらかすようにそう絞り出すので精一杯だった。
「だってそうでしょう?上野さんに諸星さん」
仮に本人達が希望しなかったとしても、カースト上位でルックスがいいのは二人の方だわ、という水森唯の言葉に俺は固まってしまう。
ご当地アイドルグループ。
田舎のイベントのステージとはいえ、アイドルはアイドルなんだ。
容姿の華やかなメンバーがセンターになる。
それは自然なことなのかもしれない。
「……高望みなんてすべきじゃないことはわかってるわ。[スタァ☆レモネイド]の復活。それを私の手で成し遂げる。それこそが私の希望なんだから─────────────」
水森唯がキュッと唇を噛んでいるのに気付く。
「水森。お前のお袋さんにさ、ド派手なステージを見せて驚かせてやろうぜ」
俺も全力でやるからさ、と声を掛けるのが俺に出来る精一杯だった。
重い空気が両肩にのしかかる。
水森唯・上野綾・諸星キクコ。
三人目までのメンバーが決まったのはいいが─────────この企画は途方もなく前途多難であるように思えた。




