ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜⑯
「ハァ!?」
流石の御月でもこればっかりはどうにもならんだろう。
諸星キクコは悲鳴に近い声を上げる。
「ちょっとどうしちゃったのよレイジ?」
熱でもあるんじゃないの!?と諸星キクコは御月の額に手を当てる。
いや、と御月は小さく首を振った。
「……おれは至って平静で正常だ」
いやいやいや……
こんなこと、急に言い出したら正気を疑われても仕方がないだろう。
「さてはアンタ達ね!?レイジに変なことを吹き込んだのは!?」
諸星キクコがキッと俺達を睨み付ける。
「えっと、そうじゃなくてさ───────────」
俺はざっと今までの流れを諸星キクコに説明した。
全てを聞き終わった諸星キクコは大きなため息をついた。
「……水森さんのママがやってたご当地アイドルグループ、ねぇ……」
やってくれるか、と目をキラキラさせながら御月が諸星キクコを見つめる。
「まだそんなこと言ってないでしょ」
諸星キクコはピシャリとそう言い放った。
「……………」
長い沈黙が部屋に流れる。
どうすんだよこれ。
かなり最悪な印象しか与えてない状態での勧誘じゃないか。
もうちょっと段階を踏むべきだっただろう。
気まずい。
マジでどうすんだよ?
重い空気に耐えかね、俺は口を開いた。
「な、なあ……諸星。引き受けちゃくれないか?」
御月もお前のアイドル姿、見たいって言ってるしさ、と俺が言うと───────────諸星キクコは意外な言葉を返してくる。
「いいわよ」
『え!?』
俺と御月、水森唯はお互いに顔を見合わせる。
「……やって……くれるのかキクコ」
……スタァ☆レモネイドに入ってくれるんだな?と御月が念押しするように尋ねると、諸星キクコはさらにこう続けた。
「ただし、条件が一つあるの。それを了承してくれるなら入ってあげてもいいわ」
「は!?そんなの当たり前だろ!?どんな条件でも構わねぇって!」
なあ水森、と俺が確認すると水森唯もコクンと頷く。
「……ええ。もちろん」
で、と御月がソワソワした様子でこう訊き返す。
「……それはどういう条件なんだ?」
しかし。
コホン、と咳払いした諸星キクコの口から飛び出したのは──────────────全てを根底から覆す、あり得ない交換条件だった。
「アタシをグループのセンターにすること。その条件だったらやってあげてもいいわよ」




