ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜⑨
「……詳しいことはまた後で連絡するわ」
じゃ、と言って席を立とうとする水森唯の手を俺は慌てて引っ張る。
「おいおいおいおい!いくらなんでもそりゃねぇだろうがよ!」
何か問題が?とキョトンとした様子で俺に聞き返す水森唯。
いやいやいや……
「上野に頼もうって言ったのは俺だけどさ!こんなん騙し討ちじゃねぇか」
悪徳セールスの契約みたいな了承の取り付け方しやがって、と俺が言うと上野は怪訝そうな顔でこちらを見る。
「……ちょっとさ、二人とも何のハナシしてんの?」
まあそういうリアクションになるわな。
「あ、いや、その──────────」
俺がどうにか取り繕おうとした時だった。
「上野さん。ダンスと歌の練習って出来る?」
水森唯が唐突にそう質問する。
え?まあ、ちょっとくらいなら?と上野は咄嗟に答えた。
「だったら決まりね。丁度いい空きテナントをリハーサル用に貸して貰える手筈になってるから……」
週末、そこに集合しましょう、と次々と決定事項を告げていく水森唯はまるで敏腕プロデューサーのようだ。
さっき聞いた話だと、俺らの学校から近い場所に歌と踊りの練習をするスペースを確保して貰うということだった。
まあ、練習するのに学校から市内中心部までわざわざ通ってたらそこそこ時間かかるからな。
近いのに越したことはないが────────
これってさ、もしかして俺は要らないんじゃねぇの?
もういっそ水森一人でプロデュースした方が上手くいくんじゃないか?
「さっきから二人とも何のハナシしてんのよ???」
ぜんっぜん何言ってるかわかんないんだけど、と上野はまたしても怪訝そうな表情を浮かべた。
どうしよう。
『1ヶ月後にアイドルグループのメンバーとしてステージに立ってくれ』って言ったら普通に断ってくるよな……
一体、どう説明したら上野を味方につけることができるんだ?
気のせいか会話が噛み合ってなくね?




