ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜⑥
いやいやいや………
「なんでそんな出鱈目なスケジュールなんだよ。おかしいだろ」
普通は数ヶ月前から準備してるもんなんじゃねぇの、と俺がツッコむと水森唯は神妙な表情を浮かべながらこう言った。
「さっき、『市内のダンススクールの生徒の中からメンバーを選抜する予定で打診をしていた』みたいな話をしてたでしょう」
あれって本当はもうほぼ内定してたらしいの、という言葉に思わず俺は反応する。
「……は?じゃあもうメンバーはほぼ決まってるってことか?」
だけど、と水森唯は少し沈んだ様子で続ける。
「私が無理に立候補したせいで……ダンススクール側と交渉が決裂してしまったみたいで─────────」
あちら側から今回の企画については辞退の申し入れがあったの、と水森唯は申し訳なさそうに言った。
「なるほどな。ダンススクール側からしたらさ、せっかくウチの生徒を選出したのに、って感じなのか」
ええ、と水森唯は視線をテーブルに落とし小さな声で答える。
「表向きは有名ダンスコンテストの全国大会の予選が近いって理由での辞退だけど……」
本音のところでは良く思われてはないでしょうね、と水森唯はため息をついた。
「血縁者のコネでねじ込んだメンバーってことできっと私を見る目って厳しいと思うの」
でも、と水森唯はいつになく真剣な様子で俺にこう言った。
「私、他人からなんて言われてもいいの。それでもいい。[スタァ☆レモネイド]を誰にも渡したくなかったから──────────」
おいおいおいおい、メチャクチャにハードル上げてくるじゃないか。
「じゃあますます俺にやらせちゃダメだろ、こんな大事なこと」
ううん、と水森唯は首を横に振った。
「だからこそ佐藤君じゃないと出来ないと思うの」
なんなんだ、この根拠のないあやふやな感じの指名は。
「聞けば聞くほど無茶振りもいいとこじゃねぇか」
俺はヤケクソ気味に二個目のフルーツタルトを口に頬張る。
「ほら!頑張ってよプロデューサーさん!今から残りのメンバーを集めるところからやらなきゃいけないんだから!」
水森唯が俺の肩を叩き、思わずフルーツタルトを喉に詰まらせてしまう。
「……ファッ!??」
ぐは、と情けない声を上げながらも俺は自分の耳を疑った。
え?
なんだって?
────────────────残りのメンバーを集める所から!?
無茶振りが過ぎる。




