ep10.『聖母と道化、その支配人』スタァ誕生前夜①
「……!????」
なんだ?
何が起こってる!?
意味がわからず硬直する俺の目の前に居るのは間違いなく水森唯だ。
佐藤君、と遠慮がちに呟くその声はいつもの水森唯で間違いない。
「……は?」
なんでそんなカッコして……と言いかけた俺は途中で視線に気付く。
水森唯が俺を見ている。
真剣な眼差しはそれが冷やかしや悪ふざけではないことを物語っていた。
それってさ。
─────────────ガチってことなのか。
俺は無言のまま水森唯を見つめ、それから隣の祖父さんに視線を移した。
二人とも無言のまま俺の様子を窺っているかのようだ。
おれはゴクリと唾を飲み込んだ。
なんだこれは。
マジなのか。
「……その……学生主導で……アイドルのステージ……でしたっけ?」
辛うじて俺がそう搾り出すと祖父さんはさっきのファイルをこちらに手渡してきた。
「そう。さっきは悪かったね。ビックリさせてしまっただろう」
これはそんな大袈裟なものじゃないんだ。そうだな。文化祭みたいなものだと思ってくれていい、と祖父さんは穏やかな表情を崩さずに静かに言った。
「……はあ」
文化祭、ねぇ……
確かにさ、クソ田舎の地域ふれあい祭り的な出し物となればそんなレベルだろう。
俺はもう一度横目でチラリと水森唯の姿を見た。
かなり短いスカートは普段の水森唯からは想像もつかない姿ではある。
だけど。
どうしてだかわからないが───────────目の前の水森唯から何らかの強い決意のようなものがあるように感じられた。
そうだよな。
こんな格好、クラスの奴らの前では絶対にしない。
男子からも女子からも何を言われるかなんて水森唯が一番よく知ってる筈なんだ。
その水森唯が───────────この姿で俺の目の前に立ってるってことは、だ。
それの覚悟は既に決まってるってことだろう。




