表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/1123

ep2 . 「訳有り令嬢と秘密の花園」 永遠に咲く花

言っとくけど『蜜と罰』に出て来てた主人公は絶対に俺じゃないからな。多分。記憶とか一緒じゃねぇし。知らんし。

俺は神社を飛び出し、学校とは反対の方向に向かって闇雲に走り出した。


どんなに遠くまで走ったって自分自身のやってしまった事からは逃げられないのなんて解っていた。


それでも走らずにはいられなかった。


俺は俺が心底嫌いになった。


記憶の無い自分自身が恐ろしくもなった。


どうして?どうしてそんな事をしてしまった?


俺とマサムネの面倒を見てくれていた花園リセを裏切ってそんな恐ろしい事を?


聖母のような貴婦人、あんなに優しい令嬢を?


喉と胸が潰れそうにながらも俺は全力で闇雲に走った。


花園リセ。


微笑む彼女の顔だけが脳裏から消えなかった。


俺は何かに躓き、土手から河川敷まで訳も分からず一気に転がり落ちた。


視界が緑一色になる。


土手に自生する尖った草の葉で頬や腕が切られていく。


この世界の何もかもがどうでも良くなった。


俺の目の前には青空だけが広がっていた。


草が伸び放題になっている河川敷に転がった俺は何の気力も起きず、そのまま空を見上げた。


不意にぼんやりとした昔の記憶が蘇る。


6歳の俺。


幼稚園で作った母の日用の折り紙製の造花。


数ヶ月間だけ一時的に家にいた母親にそれを手渡したんだっけ。


あの時、俺の母親は………


顔に生暖かいものが落ちる。


雨が降って来たのだろうか。


俺は青空を見上げたままぼんやりと考えた。


そうか、そうだったんだな。


母親の顔が記憶の彼方から微笑んでいた。


俺はあの令嬢、花園リセにただ笑っていて欲しかったんだ。


彼女が笑ってくれたならそれだけでもう何も要らなかったんだ。


ただそれだけだったんだ。


大粒の雨が青空から次々と俺の顔に降り注いだ。


どれくらい時間が経ったのだろうか。


俺は疲れからか少し眠ってしまっていたようだった。








河川敷に突風が吹き付けて来る。


太陽はいつの間にか高く昇っていた。


まだ夏の気配のする眩しい日差しを遮りながら俺は起き上がり周囲を見回す。


ふと、美術の教科書で見かけたようなワンシーンが目に飛び込んだ。


日傘を差した女がこちらを見ていた。


俺は低い位置から女を見上げた。


その向こうには見覚えのある黒い猫。


マサムネ、と俺が名前を呼ぶと真っ直ぐにこちらに駆け寄って来る。


俺はマサムネを抱き上げた。


マサムネは素知らぬ様子でにゃあ、と鳴く。


「貴方の猫でしたの?」


日傘の女がこちらを見ている。


長い金色の髪に長いドレスのようなスカート。


女は静かに俺に微笑みかけた。




それは俺と花園リセとの“最初の出会い”だった。

2章終わり。明日から新章な。


続きが気になったらブックマーク登録と評価頼む。


Twitter ⇨@soresute95


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ