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50 日方総司から茅野椿への告白。

浅間(あさ ま)カッコよかったねー! 普段からあのぐらいカッコよければもっとモテるのに……」


「いや、今の時点で充分モテてるでしょ。あれ以上モテてもしょうがなくない?」


 七海(なな み)は一瞬「うーん」と悩む。


「たしかにそうかも。完璧すぎてもちょっと近づきずらいよね」


「うん……」


 いまいち七海の言っていることがよくわからなかった。というか、それって俺の質問に対する答えになってないような。


「それで日方はこれからどうするの? ライブ終わりの浅間に直撃取材してみる?」


 ……直撃取材って。芸能人じゃあるまいし。


「いや、俺はやめとく」


 すると、七海は「えー、つまんな~い」とかなんとか言っている。


「もういいもーんだ。私だけでも行ってくるから! 後でごねても知らないからね?」


「大丈夫。赤ちゃんじゃないんだから、ごねないって」


 その俺の返答に七海は納得できなかったのか「そういうことじゃないんだけどなー」とかぶつくさ言っていた。


 ×××


 時刻は午後四時。


 俺は思っていたよりも文化祭を楽しむことができて、とても満足していた。そしてそれと同時に、俺の体にはどっとした疲れが押し寄せてきた。


 めっちゃ疲れたー。なんというか、文化祭って普段使わない筋肉を使うからいつもの何倍も疲れるよね。それに、文化祭は週末にやるからいつもの平日の疲れに耐えつつ、更にその何倍もの疲れにも耐えなければならない。


 もはやここまでくると、文化祭は新手の修行なのではないか? と思ってしまう。


日方(ひ かた)くん」


 と、俺の近くから声が掛かった。俺は声のしたほうに即座に振り向く。


「今日は楽しかったですか? この(くれない)祭のスローガンどおりになりましたか?」


 この文化祭のスローガンってなんだったけなー、と思い出せるはずもないそのスローガンを思い出しているふりをする。


「もしかして、覚えてないんですか?【真っ赤に染まるな、紅祭!】ですよ」


 ほぇー。ってかそんなこと言ってたっけ? そのスローガン生まれて初めて聞いた気がするんだけど。


「うん。ごめん、そもそもそれ聞いても『あー、それかー』とはならないんだけど。というか、そのスローガンにどういう意味が込められてるの?」


 すると、田辺は「おいまじかよ、こいつ」みたいな心底俺を蔑むような目で俺を見てきた。おーい、顔に出てるよ顔に。それにその目もやめようね、なんか怖いから。


 田辺は腰に手を当て、今にも「ったく、しょうがないですねー」と言いたげだ。


「【真っ赤に染まるな、紅魂!】というスローガンには『ただの赤色ではなく、紅のように深みのある文化祭にしよう!』という意味が込められているらしいです」


「……そっか」


 んー、やっぱりなんかパッとしないよな。文化祭のスローガンってのはもっとこう【愛、友情、正義】みたいな勢いあるやつのほうがいいと個人的には思う。しかも、らしいって……あんなに自信満々に言ってた割には不確かな情報なのね。


「『そっか』って、心の底から興味なさそうに答えますね。実際、私とは違ってまったく興味がないのかもしれませんけど……」


 俺はその返答に、田辺が先ほど俺に見せたような自信満々さで答える。


「そのとおーり! ……まったく興味ない。あ、でもそのスローガンに込められてる想い? 的なのを聞いて、案外深い意味が込められてるんだな、って感心はした」


 すると、田辺が急にこちらに乗り出してくる。


「ですよねー! 日方くんもわかってくれますか? この凄さ」


 俺はやや引き気味に「まあ、うん」とだけ答えた。


「では、また明日。一緒に軽音部の公演見に行くの楽しみにしてますからね!」


 そして彼女は俺の少し先を行く。


 ×××


 俺は一人、屋上の扉を開けた。


「ごめん、待たせて。あとさっきはありがとう……」


 屋上から見える景色を眺めていた彼女は、こちらを振り向かずにさらりと言う。


「別に私は大したことはしてない。日方から貰った借りを返しただけ」


 でも……


「あの時の俺にとっては大したことだった」


 彼女がこちらに振り向く。


「それを言うなら、あの時の私にとってもあれは大したことだった……」


 いや、それは違う。と俺は声を大にして言いたかったけれど、俺はその言葉を心の中に留めておく。


「それで私をここに呼び出した理由は……そうよね」


 茅野(ちが や)はその言葉の先に何を思っただろうか。


「茅野!」


 俺がいつもより大きい声を出すと、茅野の組んでいた腕が自然と下に降りた。けれど、その両手は行き場を失い彼女の太腿あたりでグッと強く握られている。


「俺は……」


 あの時には続かなかったその続きを。


『日方はさ、その――私のことどう思ってるのかな、と思って……』


『私のこと……好きだったりするのかな、って』


 忘れていない。忘れられるわけがない。それは、俺がずっと自分自身に問い続けてきたものでもあったから。


『私はあなたのことが好き……だと思う』


 茅野のあの告白からどのくらいの時が過ぎてしまっただろう。


 ――それでも、俺は言わなければならないから。


「茅野のことが……好きだ」


 ――ごめん。


「でも、茅野とは付き合えない」




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