42 七海夏美の独白
私のママとパパはいつも喧嘩ばかりしていた。
幼い頃の私からするとそれは凄く怖くて、小学生ながらに私は家に帰りたくないなと思う日もあった。
その時の私は両親が喧嘩をする度になんでママとパパはいつも喧嘩ばかりしてるの? 二人とも仲良しだから結婚したんじゃないの? と子供ながらに思っていた。
そして、両親の喧嘩は徐々にエスカレートしていき、家で会ってもお互いがお互いを無視するほどになっていった。
私には両親の関係がなぜそこまで悪くなってしまったのかがわからなかった。
喧嘩することはよくないことだと子供ながらにずっと思い込んでいた。
でも私は徐々に、学校でよく一緒に遊んでいたりする友達同士がたまに喧嘩をするのを見て、喧嘩をすることは別に悪いことではないのかも、と思うようになっていた。
しかしその喧嘩を止める先生を見て、やっぱり喧嘩は悪いことなのかな? という気持ちも同時に持っていてどっちつかずの気持ちをいつも抱えて生きてきた。
そして私は今、喧嘩は必ずしも悪いことではない、と思うようにしている。
それでも私の両親が喧嘩や仲の悪さから別居してしまったことを思うと、喧嘩は悪いことではないけどその喧嘩が彼らにいい影響を与えるか悪い影響を与えるかはお互いの関係次第なのだろうと思っている。
喧嘩ぐらいで壊れてしまわない関係性であれば喧嘩をしてもいいと思う。
彼らはその喧嘩からお互いの価値観を知り、それをお互いが受け入れることができるから。
私の両親はそれとは違った。
喧嘩をする度に関係性は悪化した。
今思えば、それはお互いがお互いの価値観を受け入れようとしていなかったからだと思う。
私は今でもママとパパのことが好き。いくらママとパパが別居をして私はパパとたまにしか会うことができなくなってもそれはパパを嫌いになる理由にはならない。
今も変わらずパパのこと、もちろんママのことも大好きだ。
だからこそ両親にはずっと仲良しでいてほしかった。
それで三人でくだらない会話をして笑いあったり、三人で遊園地に遊びに行ったりして、もっと家族そろって一緒にいたかった。
両親が別居を決めたとき、私の今のこの気持ちをちゃんと伝えていたらママとパパは別居することはなかったのかな、と今でも後悔している。
一方で両親がたとえ別居しないで一緒に三人で暮らし続けていたとしても、私がいるときだけは仲良い夫婦を演じ、私がいないときはやはり喧嘩ばかりしていたことだろうとも思う。
私はそんな見せかけだけの仲良い夫婦に彼ら自身になってほしいわけではなかった。
だから、結局私があの時なんと言っていたとしても彼らの仲は変わらなかったのだろう。
私のために仲の良い夫婦になろうと少しは努めるかもしれないが、努力したからといって感情に嘘はつけないからやっぱり同じ結果だったと思う。
なんかこんな話をしていると無性にパパに会いたくなってきたなー。
元気にしてるかな……。
パパに会いたい。
私には反抗期というものがなかったように思うし、両親も私にだけは変わらず愛を注いでくれていたように思う。
だからせめて……もうあんな苦しい思いはしたくもないし、してほしくもないから彼女の恋だけは絶対に実ってほしいと思う。
椿ちゃんの恋だけは。
同じ乙女として、絶対に。