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14 週末

 さすがにここで俺の案が却下されることはないと思ったうえでの提案だった。


「……わかった。たしかに真昼間から話すような内容じゃなかったかも。ごめん」


 七海(なな み)は少しばかりしょんぼりと項垂れている。


「いや、まあ全然いいんだけどさ。七海も俺たちのことを思って言ってるんだろうし」


 言ったあとに少し後悔した。


 うーん、ちょっとキモかったかもな。絶対後半の言葉余計な一言だったわ。


 七海の顔を恐る恐る見てみると七海は「……これから何して遊ぶ?」と平然と言った。


 うっわー、スルースキル高めだね! この子。


 完全に後半の俺の言葉ガン無視じゃん。


 無理に触れられても俺が困るだけだったことを考えると、これはこれで七海なりの一種の気遣いだったのかもしれない。感謝します!


 それはそうと、なにして遊ぶかな……。


「ボーリングとかカラオケとかクレーンゲーム、メダルゲーム、ダーツ、UFOキャッチャーとか?」


 クレーンゲームとUFOキャッチャーは同じか。


 俺は七海の様子を窺ってみる。


 彼女も考えている様子だ。


「彼女『も』」って言ったけど当然ながら俺は何も考えてない。

 

 そして七海は突然、合点がいったかのように右手に握り拳を作り、ポンッ! という効果音とともにもう片方の手のひらに乗せた。


「今言ったのってどうせ全部同じ場所にあるよね? じゃあ、行ってみてから決めようよ! どっちにしろ移動しなきゃだし」


 言われてみて気がついた。


 確かにそうだわ。週末だと待ち時間とかあるかもしれないし。


「確かに一理ある。そうするか」


 そして俺と七海はほぼ同時に椅子から立ち上がった。俺たち息ぴったりじゃん。


 俺は迷わず真っ直ぐに突き進む。


『男たるもの、何があろうと真っ直ぐに突き進むべし』By 日方総司(ひ かたそう じ)


 明日長半紙にダルマ筆で書こうかな。


 七海は俺のイノシシにも負けず劣らずの秘技「迷ったら真っ直ぐに突進」をただただ見つめていた。


 そしてやがて「ふっ」と漏らし、クスクスと笑い始めた。


「そっちじゃないから~!」


 そうだったけ?


 ×××


 俺たちはショッピングモールを早々に出てカメラ屋の前にあるバス送迎所に向かっていた。


『ボーリング場兼色々』に向かうには無料シャトルバスに乗れば一〇分ほどで着く。


 ちなみにこのボーリング場の名前は俺のオリジナルである。


 バス停に向かっている途中、俺は疑問に思ったことを七海に聞くことにした。


「そういえば、さっき一緒にいた二人にはなんて言って別れたんだ?」


「……え、普通に『彼と話したいことがあるから私はここで解散でもいい?』って言ったよ」


「お、おぉ……、随分と直球なんですね。というかそれ絶対勘違いされてるじゃん」


「いや……、そんなことないと思うよ?」


 いや……、そんなことあると思うよ?


 なんでこの人は『彼』って 言っちゃったんだよ。名前を言え、名前を……。


 まさかだとは思うが……俺の名前を知らないのか? え、そんなわけないよね??



 そんなこんなで俺たちはバス停前に到着した。


 タイミングが良かったのもあってか、二分ほど待ったところでバスは来た。


 バスに乗り込み一〇分ほど揺られ、俺たちは無事ボーリング場に到着した。


 バスに乗っている間は学校での面白話などの他愛のない話をしていた。


「とうちゃーく!」


 元気ですねーこの人。


 ふと「この無邪気っぽさが七海のモテる秘訣だったりするのかなー」と柄にもなく思った。


 俺たちはバスを降り、各遊びの待ち時間をモニターで確認する。


 そこにはボーリング45分、ダーツ待ち時間なし、カラオケ30分、ビリヤード10分と映し出されていた。


 俺の率直な感想は「微妙ー」だった。


 七海にどうする? と視線で問うと、


「……ボーリングかカラオケがいいけど、どっちも結構待ち時間があるよねー。でも待ち時間があるのはしょうがないか~……」


「……そうだな。ボーリングにしますか」


「そうしよっか」


 俺と七海は携帯を弄りつつも時々会話を交えつつ、立ちながら待つことにした。


 そこで俺は一つ茅野(ちが や)について疑問に思ったことがあり、七海に聞いてみることにした。


「そういえばさ、茅野と俺は毎朝同じ時間に同じ駅から電車に乗って学校まで行ってるはずなのにこの前電車で初めて茅野に会ったんだ。どうしてだと思う?」


 しばし静寂がこの場を支配する。


「……そりゃあー、毎回たまたま違う車両だったとか。実は一本電車に乗る時間が違うとか。でもたしかに一度も会わないっていうのは不自然かも。私だったら日方(ひ かた)と会わないためにわざわざ電車の時間ずらしたりはしないし……」


 七海は頬当たりに手を添え、考える仕草をしながら「あっ!」と言って俺に答える。


「あれじゃない? 多分だけど、日方が自分と同じ電車に乗っていると気づいたその日から椿ちゃんはあえて日方と違う車両に乗ることにしたんじゃない?」


 俺は考えるのが面倒な気分になったので、七海に単刀直入に尋ねてみることにした。


「なんで?」


 疑問形に疑問形で返す形になってしまった。


「ほら、一緒の車両に知り合いとか友達がいるのってちょっと気まずくない? 話しかけたらいいだけなんだけど、話しかけるまでが時間かかるといいますか、話しかけづらいといいますか……」


 あー、なんとなく合点がいった。その気持ちは俺も味わったことがあるから何となく理解できる。


「たしかになー。でも、向こうも向こうでスマホ弄ってるから話し掛けていいのかわかりずらいんだよな。教室なら話し掛けられるんだけど、電車だとお互い謎のプライベート感があるよな」


「そうそう! そういう感じ! それに会えたら会えたで面白いから一種の賭けみたいな感じで、一応会わないように車両ずらしてるけど、会えたら会えたでまあいっか! みたいな……」


「…あー、なるほど。まあ機会があったら今度聞いてみるわ」


「そうしな!」


 そしてその後も何やかんや携帯を弄っていたら「ちょっと私番号確認しにモニター見に行ってくるね」と言って俺が返事をする間もなく七海はそそくさと行ってしまった。


 ほんとあいつ身軽だよな。


 七海がモニターを確認しに言っている間、俺はぼっーと店内を見渡す。


 するとそこには俺に馴染みのある容姿を纏っている奴がいた。



   

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