6=28
喫茶店に集まっているのは、仲間や友達だけではなかった。
顔見知りくらいの仲。
「すげぇくだらない問題を考えた。お前等、答えろ」
わずか5分程度で済む。問題というには、あまりにも幼稚過ぎること。
今の時期、受験だなんだって忙しい時期に。知識力とはまったく関係のない、くだらない問題を山口兵多は顔見知り連中に出したのだった。
「なんで俺達がそんな問題に参加しなきゃいけねぇんだ」
乗る気のない男の1人、広嶋健吾はめっちゃ面倒そう。
「お前とは仲間でもない、……だろ?」
独特な口調で話す男、藤砂空も。キツイ一言を言いながら、兵多の問題に関心を出さなかった。それは兵多も同じである。
彼が声をかけたのは、自分と同じ20代ぐらいの人間の中で、唯一。明らかな子供であり、事実ここでは小学生をやっている、阿部のんちゃんを揶揄ってのこと。
「野郎はどーでもいい」
のんちゃんの隣には、沖ミムラ、山本灯、裏切京子といった女の子が並んでいるから、くだらない問題であり、エロくもない謎かけで楽しませたり、腹を立たせたりしてやろうと思っていた。
ようは暇つぶしだろって、広嶋と藤砂は兵多の事を察している。
「やってみるか、のんちゃん?」
「やります!」
「よーし!正解したら、お年玉に色をつけて渡してあげる」
「それ乗った!」
「間違えてもお年玉ください!」
「ミムラ、灯は大人なんだからあげる側だろ?まぁ、お前等にはたぶん分からん。じゃ、問題」
そして、凄くくだらない問題が出される。
『6=28が成り立つように、証明せよ』
”6=28”
いや、それは
「最初から間違ってますよ、山口さん」
「ミムラちゃん。俺の事を馬鹿みたいな目で見るのは止めてくれよ。そんなのは知ってるが、この式をなんとかして証明させろって問題。5分ぐらい考えてくれよ。コーヒー淹れてもらお」
そう言って兵多は、カウンター席に行ってしまう。
「答え分かったら、こっちに来て答えてくれ」
兵多の挑戦状。やる気なさそうであった広嶋、藤砂も、兵多の出した問題に興味が出てきた。
6人のシンキングタイムだった。
「んー……つまりは、どーいう事?」
「共通点なくない?2の倍数だからなに?みたいな」
「くだらねぇ」
「そー言いながら、広嶋さんも考えてますね!」
30秒ほどして、
「よーし!分かった!一番ノリ!」
「ミ、ミムラ!まさか、バカなあなたが一番に閃くなんて!」
ミムラが兵多の方へ駆け寄る。
もし、正解でもされたらショックを受けてしまう5人。ちょいと焦った。絶対間違ってると誰もが思っている。そんな酷い期待を感じず、兵多に答えを確認……。
「…………でしょ?」
「まー、考え方は悪くないが違う。そーいう”イジリ”はしねぇ」
「えー!?まぁ、そっか」
ミムラ、不正解!
そーやれば、確かに近い答えになるが違うのだ。
「あー。外れちゃったよ」
「まったく」
当ててたら、焦った~。絶対にミムラにバカにされる。そう思う5人であった。そして、その回答から10秒後
「ホントにくだらねぇ問題だな」
このグループのリーダー格である広嶋が、クイズに乗る気じゃないのに兵多の方へ向かった。
さすが広嶋。分かったのかと、藤砂は関心の目。のんちゃん、ミムラ、裏切の3人はすごーいって感じの顔で広嶋を見ていた。こいつだけは別格である。
「………だろ?」
「全然違ぇーよ!」
「なに!?」
自信満々の不正解!
「何が両辺に”―”を入れて、”-6=2-8”だ!それは数式的には合ってるが、俺が出した問題は”6=28”だ!そーいう”イジリ”はいらないんだよ!」
「あはははははは!!自信満々で間違えてやんのー!!だっさ、広嶋!!」
「あたしと同じ答えを言ってるーーー!でも、そーいう答えしかないよね!」
不正解した事よりも、ミムラと同じ思考と言われたのが屈辱的だった広嶋。
ぜってー、正解してやると。負けず嫌いの顔で恥ずかしい顔を誤魔化すのであった。
そして、問題を出してから1分後。
「こーじゃないですか!?」
「お、のんちゃん。これは期待」
兵多の中ではおそらく、のんちゃんがこの問題を一早く解けると見ていた。そして、
「……ですよね!?」
「……おー!さすが!正解!!頭、柔らかいなぁ!お年玉、2000円から4000円にしてあげる」
「いやったーーー!!」
物凄い笑顔をみせる、のんちゃん。誰も解けなかった問題を一番に解くのは楽しいものだ。そして、のんちゃんの後を待っていたように
「じゃあ次は、……俺が答えていいよな」
「藤砂さんが!?乗り気なかったのに!?」
「藤砂。あんた分かったの?」
「おい、俺が先に分かってから答えにいけや」
なんとなくではあったが、藤砂はのんちゃんが閃く前からこの問題の答えが分かっていた気がした。妙に人の良い奴だと、付き合いの長い灯と広嶋は思う。
「……って事だろ?くだらないよな」
「正解!ははははは!あんたも見かけによらず、発想力あるなー!なにか一杯奢ってやるよ!」
のんちゃん、藤砂が正解。
残り時間はあと2分ってところ。早く答えを言えよって気持ちもあるが、なんとしても答えたい広嶋がいて……。
「あ!分かりましたよ!この裏切!!」
「はぁっ!?」
「広嶋様!私の知識を見ててください!」
「ちょっと待て、お前!俺が答えを当てるまで、待て!」
ミムラに出し抜かれるのはマズイが、裏切にも出し抜かれるのは立場的にマズイ。のんちゃんには譲ったところはあるが、バカとアホの2人にこんな問題を出し抜かれて答えられると、プライドが……。外れやがれって、広嶋は願っているが
「……ですよね?」
「正解!そーいや、あんたものんちゃんと同じ異世界人だもんな」
「厳密には違いますけど!そのおかげで分かりましたよ!」
「商品はジュースでいいか?」
まさかの裏切京子の正解に、広嶋とミムラがショックの顔を出す。残っているのは灯を含めた3人なのだが、いよいよヤバイと思って灯も考え始めた。
残り1分をきったところで
「「分かった!!」」
まるで頭が同レベルと思われんばかりの、息の合った広嶋とミムラの声が店に響いた。
それで撃沈したのは広嶋の方であり、ミムラが先に兵多に答えを伝える。
「……だよね!?」
「正解!」
「やったーーー!!広嶋くんより、早く答えられたー!」
ミムラもなんとか正解。
そして、ショックを受けつつも広嶋も兵多に答えを言う。
「これでいいんだろ?」
「ようやく正解できた気分は?」
「うるせーな!殺すぞ、テメェ!?」
罰ゲームのような煽りをされるのであった。
そして、残った灯。
「ちょっとちょっと!あたし、まだ分からないんだけど!もういいから、答えを言いなさい!」
「分かった分かった」
ぶっちゃけ、そっちメインだよ。って考え。灯としてはミムラ達が一喜一憂している方が楽しかったんだろうが、問題の答えもそれはそれで気になっていた。
兵多は揶揄うことなく、紙とペンを用意し
”6=28”を書き……
「数字を漢字に変換し」
”六 = ニ八”
「縦にして読むと……(=の縦変換できねぇなっていうメタ)」
六
・
二
八
「お互い”六”に見えるだろ?(ニと八の間を詰めるとさらに見えやすい)」
「くだらなっ!!しかも、それっぽく見えるだけじゃない!!認めたくないんだけど!!”十”はどこにいったのよ!?」
「誰も、28(にじゅうはち)とは言ってないだろ?」
「この正解を認めない奴の方が多くない!?」
「どーかな?」
くだらねぇ問題だった。