第3話 釘は英語でネイル
モモとセバスチャンは、俺の無事が分かると家へ帰って行った。後で改めてお礼がしたいらしいから、後で家を訪ねる必要がありそうだ。
ゴツい男はモモのお父さんの領主に引き渡し、処罰を決めるそうだが、死刑か良くて犯罪奴隷だそうだ。
彼女達と別れた俺はというと、とある宿屋の一室で、竜人のネイルと一緒にいた。
「遅くなったけどさ、2回も助けてくれてありがとう。ネイルだっけ?」
「うむ、わらわも暇じゃからのぅ。暇つぶしに助けただけじゃから、気にするでない」
ネイルは足を組んで椅子に座り、木のコップに入った水を回しながらそう答えた。
竜人のコスプレをした小学6年生にしか見えないが、この口調とあのステータスを考えると、一体何歳なのやら。
それにしても、釘宮理恵さんの声にしか聞こえない。なんて可愛い声なんだろう。ずっと聞いていたい。
「ネイルは竜人っていうのか?実は俺、この世界のこと何も知らなくて、色々教えて欲しいんだけど」
「良かろう、ただし条件があるのじゃ」
「条件?」
「お主のステータス画面を見せて欲しいのじゃ。そうそう、サービスで先に一つ教えるとのぅ、この世界でステータス画面を人に見せることは自殺に等しいことなのじゃ。」
「ふーん」
「強者同士の闘いでは、ユニークスキルの相性がそのまま勝敗に繋がるからのぅ。じゃあなんでさっき、わらわはステータスを見せたのかと思うじゃろ?わらわは例外じゃ、圧倒的なステータスの差はどんなユニークスキルでも覆せないからのぅ」
「へー」
「それで、わらわはお主に、この世界の話をする。そしたらお主は、わらわにステータス画面を見せるのじゃ。そのあと、わらわは寝床に帰るからのぅ」
「分かった。俺のステータス画面に価値があるとは思えないけど、約束するよ」
そういえばネイルは、確認したいことがあるって言っていた。ナワバリに巨大な魔力が〜って話も、多分、俺が転生した時の影響だろう。
俺がこの世界を知らないって言っても、あまり動じた様子は無いし、転生してきたと薄々気付いてるのか?
それにしても美しい声だ。
ずっとこの子と一緒にいたかったが、残念だ。俺のステータスを見たらガッカリしてすぐに帰ってしまうだろう。
「うむ、それではまずは、わらわが竜人かどうかという話じゃったな。結論から言うと、わらわは竜人ではないが、竜人であるとも言える。」
「どういうことだ?」
「ドラゴンは竜人に、逆に竜人はドラゴンに変身できる。本当の姿はどっちかという話で、見た目は変わらないのじゃ。ステータスはドラゴンの方が圧倒的に高いけどのぅ」
ネイルはニカッっと笑うと、流体力学の学者が見たら垂涎ものの、凹凸のない体をそりあげて、誇らしげに胸を張った。
「じゃがのう、ドラゴンの方が圧倒的に少ないんじゃ。それには理由がある。まず、本当の姿が決まる要素は産まれた母体、つまり母に依存するじゃ」
「へー、つまり、竜人は全員必ず人間の血が混じっていて、ドラゴンには純血とハーフがいるってことか」
「うむ。じゃが、ドラゴンにはハーフは少ない。理由は、竜の血は強者を求めるからじゃ。ドラゴンの乙女が、圧倒的弱者の人間に恋をすることは、ほとんど無い。大半の竜人は父がドラゴン、母が人間、のハーフじゃろうて」
「へー。ドラゴンと人間が交わったら、必ず竜人が産まれるのか?」
「良い質問じゃ。どうやら竜の血は人間の血より濃いようでの、親のどちらかがドラゴンなら必ず竜人が産まれる。ただし、例外もある。竜人同士の子供のうち、4人に1人は人間の子供が産まれることが知られておる」
ハーフ同士だと、4人に1人。つまり、竜人はメンデルの法則でいう所の顕性遺伝なのか。
「さらに、両親が竜人のうち、4人に1人の子供は必ず竜人が産まれる。そして、4人に2人は、その4人に2人同士が交わると16人に1人の割合で人間が産まれるのじゃ。面白いじゃろう?」
「分かった。ありがとう、ネイル。じゃあ俺の方も約束通りステータスを見せるよ」
「なんじゃ、もう良いのか。竜人のことだけでなく、他のことも教えるぞい?」
もっと喋りたそうなネイルだったが、秀吉は首を振るとこう答えた。
「いいんだ、俺のステータス情報なんて大したことないから。見たら逆にしょぼ過ぎてビックリするぞ。ステータスオープン!」
「ふむ、まぁ良いのじゃ。どれどれ」
秀吉はステータス画面を目の前に出した。
すると、後ろからネイルが秀吉の両肩を掴み、さらにアゴを秀吉の右肩に乗せ、画面を覗き込んだ。
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レベル【1】
HP15/MP8
名前:†ヒデヨシ†
種族:ヒューマン
基本ステータス:
体力 【1】
力 【1】
魔力 【1】
物理耐性 【1】
魔法耐性 【1】
スキル :無し
ユニークスキル:【自身のレベルが1上がると、前のレベルのステータスの数値と同じだけステータスの数値を増やして、今のレベルのステータスの数値とする】
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「な?笑っちゃうでしょ?多分俺、ネイルがどっかに行っちゃったら、その辺の石につまづいて死ぬと思うんだ」
「…」
「このユニークスキルもほとんど意味が無いし…。だからさ、恥を忍んで頼みがあるんだけどさ…。」
「…」
「俺をさ、レベル100くらいまで育ててくれないかな?その代わりに、俺は君に俺の命をあげるよ。君に助けられた命だ。君の命令には絶対従うし、俺は君のものだ」
「…」
「あれ、ネイル?おーい」
「…」
ネイルは計算が得意だ。塾に必ず1人いる、そろばん教室に通っていて暗算が得意だと自慢してくるやつくらい計算が得意だ。
ネイルは秀吉のユニークスキルを見て将来のステータスを計算すると、すぐにその数値の異常性に気が付いた。
だが、あまりにも膨大に膨れ上がるステータスが信じられず、何かの間違いだと何度も同じ計算を繰り返してフリーズしていたのだ。
そして、ようやく現実を受け入れる準備が整うと、今度は心臓の鼓動が速くなり、全身から汗が噴き出した。
(な、なんじゃこのチートスキルは〜!!ありえんのじゃ…たったLv10でわらわと同等以上のステータスじゃと…!?しかもLv11でわらわの倍になるではないか!)
(レベル100まで育ててじゃと!?全ステータスが1,267,650,600,228,238,993,037,566,410,752
になるじゃろが!?数字が大きすぎてもはやどれほど強いのか分からんのじゃ…)
(そんな圧倒的な力を持ちながら、わらわのものになるじゃと?こやつ…わらわをおちょくっておるのか?)
ネイルは、秀吉が将来手にするであろう圧倒的な力を想像すると、強者を求める竜の血がたぎり出した。
(いかんのじゃ…理性を保つのじゃ…ハァハァ…主様…。ダメじゃ…体が主様を求めておる…、あそこから溢れてくるものが止まらないのじゃ…。それに、なんだか気持ち良くなってきたのじゃ…)
秀吉は、いきなり汗を噴き出し、息が荒くなったネイルに動揺し、声をかけ続けていた。
「どうしたネイル!大丈夫か!?とりあえず横になれ!俺は何をすれば良い!?」
竜の血に屈服したネイルはこう答えた。
「ん"に"ょほぉぉぉ"ぉ"!!主様はわらわと子供を作って欲しいのぉぉぉ"ぉ"!!」