第1話 転生
目が覚めると、森の中にいた。
どうやら、光に包まれた後意識を失っていたらしい。
「う、うーん。いてて、なんか体が自分の体じゃないないような…」
寝ぼけながら体のあちこちを確認してみると、どうやら、若返ったというよりも、若い別な男の体に生まれ変わったようだ。
服も見たことない服だ。
鏡が無いので分からないが、顔もイケメンになっているような気がする。
秀吉は、寝起きでしばらくボーッとしていたが、今自分が神のような存在に転生させられたからここに居るのだと理解した。
「なーんか、1回寝たら神への怒りとかどうでもよくなっちゃったな」
秀吉は引きずらない。喧嘩をしても、次の日には何事も無かったかのように接してくるタイプだ。
「それにしても、ここは森の中か…しかし、木がデカいな…」
秀吉が転生したのは森の中だったが、周りにはジャイアント・セコイアのような木々がそびえ立っていた。異世界にはトレント等の危険な植物がいることを思い出し、もしこの木々が動き出したらと考え、秀吉はゾッとした。
「さてと、まずは例のアレを試してみるか。…ステータスオープン!」
ステータスオープン、それは異世界転生ではお馴染みの呪文である。例の神のような存在は異世界転生と言えば分かる、と言っていた。
つまり、秀吉の推測が正しければ、ステータスオープンと言えばステータスがオープンされるはずである。
呪文を唱えるとすぐに自分が一番文字を読みやすい場所へ、四角くて文字以外が透明な板のような物が現れた。
そしてそこにはこう表示されていた。
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レベル【1】
HP15/MP8
名前:†ヒデヨシ†
種族:ヒューマン
基本ステータス:
体力 【1】
力 【1】
魔力 【1】
物理耐性 【1】
魔法耐性 【1】
スキル :無し
ユニークスキル:【自身のレベルが1上がると、前のレベルのステータスの数値と同じだけステータスの数値を増やして、今のレベルのステータスの数値とする】
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「いやー、弱いなぁ…。異世界転生っていうからチートスキル貰えると思ったのに…。とりあえず、この世界のことを知るために街へ向かうかぁ…。」
異世界転生と言っても、その世界ごとの違いは当然ある。どんな街や国があるのか、どのくらい文明が発展しているのか、など、とにかく、まだ来たばかりの秀吉には、この世界の情報は圧倒的に少ないのだ。
秀吉はとりあえずトボトボと歩きだした。
とりあえず、何か街道のような場所に出られれば良いと適当に歩いていると、かすかに何かが聞こえる気がする。秀吉は足を止めると耳をすませた。
「何か聞こえたような…こっちか?」
秀吉は、昔から耳の良さだけには自信があった。学校の健康診断でも1度も引っかかったことが無かった。
秀吉は、音の聞こえる方へ走りだした。
余談だが秀吉は異世界転生をする前、企業の面接の際に長所を聞かれ、私の長所は耳が聞こえることです。と答えたこともある。
「男の怒号と…女の悲鳴…?それと、これは…剣を叩き合う音か?まずいな…」
秀吉が走り出すとだんだん声がハッキリ聞こえるようになり、状況がつかめて来た。
ただ、状況は良くない。どうやら女性が襲われているようだ。
秀吉は走る速度を速めた。
そして、声の主達が視界に入ってきた。
「ぐっ…も、申し訳…ありません…、お嬢…様…」
「ぐへへへへ、痛い目に合いたくなければ大人しくするんだな、お嬢ちゃん」
「いやぁぁあああ!離して!」
合計で3人。地面に這いつくばっているメガネをかけた男が一人、嫌がっている少女が一人、少女を掴んでいるゴツい男が一人。
秀吉は息を整えながら、状況を把握すると諦めたように呟いた…
「ダメだな、諦めるしか無い。もし俺にチートスキルがあれば彼女とあのメガネの男を助けることができたが、俺のステータスは1、あのゴツい男に勝てるわけがない。仕方ない、諦めよう」
そして秀吉は走り出した。
ゴツい男に向かって。
面接の話には続きがある。秀吉は企業の面接官にこう言った。
「私の長所は耳が聞こえることです。学生時代、イジメで助けを求める声が聞こえて来ました。
周りの人には聞こえないようでしたが、私はその声を聞き、必ず応えて来ました。
たとえその結果、アンパ◯マンとあだ名をつけられ、私がイジメを受けることになったとしても」
秀吉が諦めたのは、女性を助けることではない。自身の生存を諦めたのだ。
秀吉には全く勝ち目が無くても、助けないという選択肢は無かった。
女性の助ける声が聞こえるから。
たとえその結果、自身が死ぬことになったとしても。
「その手を離せェェェェ!!」
「むっ、何奴!?」
ドンッ!
「きゃあ!」
ゴツい男は少女を突き飛ばすと、こちらへ向かって剣を構えた。
「死ねオラァァァ!」
「むんッ…!」
ザシュッ!プシャァァ!
「む…?なんだコイツは!?弱すぎる!どんな防御力ならここまで刃が通るんだ!」
殴りかかった右腕が切断された。勢いよく血が噴き出している。動脈が切れたのだ。もう長くは無いだろう。
薄れゆく意識の中、声が聞こえてきた。
「なんじゃ…。わらわのナワバリに巨大な魔力の干渉があったからわざわざ見に来てみたのじゃが、そこにいた男はこんなに弱い男じゃったのか…。様子を見ていて損をしたのぉ…」
その声はどう考えても釘宮理恵の声だった。