47 オーガの影を追え!
いつかのトゥの宿からすれば、かなり贅沢な城内の一室。
リアンが案内された客室にて、ベットに飛び込みその柔らかさを喜び勇んで報告するのであったが。
「では、リアン。行くとするか」
シャルテは腰を落ち着かせることもなく、部屋の扉へと手を掛ける。
「晩餐会はきっとまだまだだ……調理場につまみ食いにでも行くのか」
「まったく。フィーネに見惚れていた割に、ちゃっかり食い物絡みは関心を寄せていたとは、呆れるばかりじゃて」
「彼女は物言う花ってやつさ。綺麗な花はついつい眺めてしまうだろ」
「高嶺の花でもあるがの」
「それで、シャルテはどこに行くんだ?」
話題をもとに戻したリアンは、シャルテの花の話をさらり聞き流すことにするようだ。
「察するに、どうやらここには、お前のような半端者の暁の騎士などではなく、正真正銘の暁騎士がいるようじゃ。そやつを探しにゆくつもり――」
あっ――とシャルテの声に重なるようにしてリアンが声を上げ、ひょいとベッドから降りる。
「フィーネは俺がオーガだと思っているんじゃないのか」
「先程の謁見ではそのような感じではあったな。じゃが」
「俺、嘘つきになるじゃないかっ」
リアンがドタドタとシャルテに食い寄る。
「ええい、話をちゃんと最後まで聞かぬかっ。お前が暁騎士とは違う烙印騎士だという事はグレマンスに説明しとるし、たかだかそれくらいで、フィーネから嫌われるような事にもならぬゆえ落ち着け」
「俺は落ち着いているし、別に嫌われたくないとかじゃなくて、騙しているようで気が引けただけさ」
リアンの両手が、手の平を見せるようにして広げられる。
「そのように懸命になって弁明せんでも、野暮な詮索はせん。それよりもじゃ。オーガを探しに行くと、お前はワシに何回言わせれば気が済む」
「何回かは覚えてないけどさ。わざわざこの広い城を歩き回らなくても、ここにそのオーガがいるなら晩餐会で会えるんじゃないのか」
「会えるじゃろうが、会えぬやも知れん。まだ城に居るとも限らんじゃろ。正直、ワシが連れてくる者以外の暁騎士が既に訪れていたとは寝耳に水じゃ。今すぐにでも、ガウの奴めに文句を垂れたいところではあるが……」
恨めしそうにシワを寄せる鼻筋。
「暁騎士の考えを知るためにも、そやつと話しをしたい。今思えばじゃが、静観していたにもかかわらず、グックにエルヴァニアの軍隊が突如現れた事といい、もしかすると、ワシとお前のここまでの旅が茶番になるやも知れん」
「茶番……無駄だったってことか?」
「民衆の意向を固める役に、一役買うものとして暁騎士の名が必要じゃった。本来ならそこに担がれるのはお前だったはずじゃからの……。ともあれ、はぐらかしのガウでなくそやつに会えば、色々と聞き出せるじゃろうてっ」
意気込むシャルテが、ばん、と扉を開けた。
客室の外は左右に分かれる通路。
「二手に分かれて探すぞ」
「なあ、シャルテはそのオーガを知っているんだよな?」
渋々といった様子でリアンも通路へ出てきた。
「ワシが心得ているようなフィーネの口ぶりと、ワシの心当たりからすると知っている者じゃな。リアンは左を行け」
「あー待ってくれ。左はわかったけどさ。俺はそのオーガが誰なのかわからない。そいつは俺の知っている奴なのか?」
「知らぬじゃろうな。お前は会ったことも見たことも聞いたこともない奴じゃ」
「だったら、探しようがない」
リアンが肩を竦め、おどけて見せる。
シャルテが大仰に吐くため息を見せる。
「お前のようにカタナをぶら下げておれば、そいつがオーガじゃて」
あとは城の者に聞くなりなんなりせいと言い残し、シャルテは右の通路をてとてと進む。
「シャルテの奴、ニイオみたいなことを言うな」
とりあえずは調理場から探してみるかと呟き、リアンは左の通路を腹を擦りながらに進むのであった。




