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暁のオーガヴァル I ~王道演武~  作者: かえる
【 Ogreval――21~】
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29 作戦始動 ②



 入り組む魔力炉施設内には皇国兵士が警備にあたる。

 巡回する兵士達との遭遇には、魔導銃で応戦し撃退する。

 半ば追われながらの進行であるも、予想の範疇であり想定よりも手薄だった警備に、大きな苦戦を強いられることはなく施設突入部隊は着実にその歩を進めた。

 そうしてなだれ込んだ機関制御室にて、不測の事態に直面した。


 魔力炉中枢、機関制御室である六角形の広間は、吹き抜けによってなお一層の空間的な広がりを見せていた。


 幾多の通路が繋がる集合地点ともなる広間中央には、精製装置を内蔵した金属の柱が高くそびえる。

 その柱に取り付くようにして、帯状の足場が周りを囲む。

 柱を通すリングとも言える足場は三つあり、折り重なるような金網状のレーンを支えに、上層、中層、下層の高低差を生む。

 広間の底となる下層のリングからレーンのスロープを上り、もっとも足場が広い中層のフロア――内壁に歩廊で繋がる六つの口を持つそこで、突入部隊の面々が対応に追われつつ各々の役割に従事した。


 各入口からの追手を警戒し、焦りの表情で魔導銃を構える者達。

 『魔導障壁』を破壊するため、忙しく爆弾を設置する者達。

 状況いかんでは、作戦中止の決断を迫られる『革命の民』の主要メンバー達。


 本来、精製装置の柱とリングの足場との境には無いはずの『魔導障壁』が、彼らの作戦目標である精製装置への接触を頑なに拒んでいた。


「一つ余分に用意していて良かったわ……」


 エリサラの呟きは独り言になる。

 残す爆弾は、ダリーが背負う最後の一つ。

 計画では、開口部の爆破と精製装置の破壊用の二つあれば事足りた。

 魔導爆弾の不具合を考慮して持ち込んだ一つが、今こうして使用される事は想定外であった。


「準備は整ったわ」


 報告の後には、短い衝撃音。

 ぶわりと上がる粉塵に、瞬間的に透明さを失った障壁――だが。

 広間の底から頂上まで、柱の見える部分すべてを取り囲む『魔導障壁』は健在である。


「くそったれっ」


 がん、と衝動に任せダリーが障壁を叩く。

 怪力自慢だろうと、人が生み出す衝撃などでは物ともしない。

 あと少しで手が届く精製装置を透かして映す障壁。

 ダリーは憎悪の表情で睨み、直ぐ様すがるような目つきで傍らのシャルテを見た。


「……嬢ちゃんの魔術でどうにかできねえか」


「魔導障壁の術式は理解しておる」


 す、と歩み出たシャルテが障壁に手を添えた。


「お主達には分からぬやも知れぬが、この魔導障壁は魔力濃度が異様に高い」


「魔力の違いなんて分からねえ……が、見たところ動力を精製装置から直接取り込んでいるみてえだ。爆弾でビクともしなかったのは、それが原因ってことか」


「であるな。強度が桁違いになっておる。そして魔術でも、ワシの【包魔力ニルバ】を遥かに越えておるその濃度を下げることが可能であればどうとでもなるが、それを行うにも肝心の精製装置への干渉をこれが邪魔しおる。つまりは不可能ということじゃ」


 さらりと言って退けたシャルテに、ダリーが舌打ちで返す。不満たっぷりで鳴らすそこには逡巡しゅんじゅんを加えるようだ。


「ダリーよ。障壁のことを考えあぐねとる場合でもないぞ。詮索も然りじゃ。この作戦は皇国に筒抜けであった。その事実を受け止め、お主は決断せねばならぬ」


 手厳しいシャルテのそれは、警告でもあった。

 ダリーが魔導銃を構える。

 他の者達も『魔導障壁』を背中に扇状で寄り合い陣形を取る。


 彼らが迎え撃つは、広間へと繋がる六つの通路から続々と姿を現す皇国兵達。

 鷹の紋章を刻む防具プロテクターに身を包み魔導銃を装備する兵士達が、侵入者を取り囲むようにして展開――牽制するように構えられた銃口は、そのまま中央へと集中する。


「どうやら、精製装置の破壊工作は失敗どころか、退却すらも難しい状況になっちまった……。だが、せめて収容所のパイプラインだけでもどうにかしねえと、俺りゃ死んでも浮かばれねえ。だからよ、シャルテの嬢ちゃん。一つ頼みがある」


 銃の照準を皇国兵に向けたまま、ダリーが言う。


「どうするつもりじゃ」


 シャルテが見た横顔には、つう、と汗が流れていた。


「ここの下にあるはずのパイプライン、収容所と繋がる配管だけでも破壊する。ただそれにゃ、皇国兵はともかくあの野郎が邪魔だ。俺達の魔導銃じゃ歯が立たねえ。ほんの少しでいい。嬢ちゃんの力で、どうにかゾルグの野郎を引き止めてくれねえか」


 複数の出入り口の一つ、皇国兵が率先して道を譲る。

 ダリー達の視界へと、マントを羽織りその下に豪奢な鎧を着込む男が威風堂々と踏み入る。

 そして、獲物を狩るような慎重さもを見せたその足は、油断ない距離を残し止まる。


「そうかそうか。反乱者だけじゃなくてよお、刀剣の女までおびき寄せてしまうとは……ふははっ、やはり俺様は優秀過ぎる俺様だ」


 喜々として笑った将軍ゾルグ。

 その狂気が混ざる視線は、渋面のシャルテへと釘付けになった。


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