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暁のオーガヴァル I ~王道演武~  作者: かえる
【 Ogreval――21~】
24/57

23 収容所 ①



 収容所の通路。

 手枷がハマる両手を腹の前に、両足を繋ぐ鎖をじゃらじゃら言わせてリアンは歩く。

 そうしながら、自分を連行する両脇の皇国兵を右左と見ていた。


「なあ、あんた達。家畜の豚がなんて鳴くか知っているか」


「よく喋る野郎だ。そんな風にフザケてられる余裕があるんだったら、もっとキビキビ歩けっ」


 兵士が魔導銃ライフルの銃床を使い、リアンを粗雑に小突く。


「――とっ。そうしたいのは山々だけどさ、あんた達の魔導銃のお陰で、まだ痺れが身体に残っている。それに、足と足が鎖に繋がれていちゃ満足に歩けない」


「そいつは減らず口なお前への特別待遇だ。ありがたく思えよ」


 兵士達がニタニタと笑い合う。

 それから角を曲がったところで――兵士達が唖然となる。

 左右からの有り様にリアンもきょとんとするようだが、通路では彼らとばったり会う者らがいた。

 グック高官の装いに身を包む女史と娘である。


「なんでお前が!?」


 冷水でも浴びたような青ざめた顔が並べば、双方の肩をくっつける兵士の背後へとリアンが追いやられていた。


「お前――いや、レイニード代表。なぜこんな所にいる。ここはグック高官が来る場所ではないはずだが」


 平然を装い一人の兵士が言えば、レイニードが威風堂堂と踏み出してくる。


「貴国からの大変強硬な軍事による治安維持警備には頭が下がる思いです。ですが、ここの管理すべてを貴方方へ委託した覚えはありません。わたくしレイニード・グックは評議会代表として、囚人の状況、また設備の不慮などを知り改善に務める義務があります」


「義務だろうとなんだろうと、勝手な事をするな。我々が困る」


「こちらからの視察は貴方方の手を煩わすものではありません。その上でうかがいますが、そちらの者は一体どういう罪でここへ連行されているのかしら」


 レイニードの勢いある言動は、相手を威圧しながら兵士達の間をこじ開けていった。


「……なあ、あんた達。俺の罪ってなんだ?」


 リアンは率直に問うて、兵士からお前は黙れと怒りを買う。

 その間に、もうひとりの兵士がレイニードへ口を開くようだ。


「グックの代表だとしても、皇国の我々に報告義務はないはずだ」


「なぜです。グックに協力してくださるラス皇国なのでしょう」


「我々は協力関係にはある。しかし、こいつは皇国兵に喧嘩を売った罪で捕まえた者だ。グックなどには関係ないこっちで処理する事案だ。言っておくが、ゾルグ将軍へ掛け合っても無駄だぞ。我々はその将軍直々の命令で動いている」


「おいっ、間抜けな口を早く閉じろ」


 相方兵士からの叱責に、はっとなるもう一方の兵士。

 レイニードは目の前のやり取りに構うことなく、言い合う兵士に「少しだけよろしいかしら」と告げる。

 どきなさい、と言わんばかりの眼光に、気圧され怯む皇国兵士。そして、その場に取り残されるはリアン。


「……近いうちに必ず希望が訪れる。だから、絶望だけはしないで」


 リアンの側でレイニードの口元が囁く。


「あー、俺のこと心配してくれてのことなんだろうけれど、たぶん大丈夫だ」


「……あなたは強い人なのね」


「俺は強くはないさ。けど教えはある」


 肩を竦めたリアンに、レイニードが目で応じる。

 そこに応えるようにして、リアンが枷のハマる手ながらも、人差し指をぴん、と立てた。


「教えにはこうある。流れに抗うことだけが未来を切り開く術ではない。時にその流れに委ねるのもまた違う。大切なのは見定めることらしいってね」


「それは……オーガの言葉だったかしら」


「そうだけど、大切なのはここに絶望の文言は入ってないってことさ。だから、折角だけど、あんたからの心配は遠慮しとくよ」


 リアンはここで初めて、強張り以外の柔らかさを得たレイニードの面立ちを知る。


「そう、あなたには信じるものがあって、大丈夫なことはよく伝わったわ。そして、やっぱり私の見立て通り強い人だと思ったわ」


 レイニードが控えていた娘の元へ寄れば、リアンは再び兵士達に連れて行かれる。


 そうして――。


「なあ、間抜けなあんた達。さっきの人、なんだか悲しそうな目をしていた。俺にするような嫌がらせでもしているのか」


 リアンが魔導銃ライフルの銃床で粗雑に小突かれるのも、収容所では見慣れつつあった。






 牢屋となる部屋。薄い色はあっても透き通る一面の壁の前では、リアンを連れた兵士達。

 一人は威嚇するように魔導銃を構え、兵士がドデっとした長方形の箱を手に話す。


「制御監視室、例の囚人を牢に入れる。35層の208番だ」


 通信機器からの応答があってすぐ、ブオン、と一瞬にして『魔導障壁』が消失する。

 大人が十人も集まればぎゅうぎゅうになる狭い部屋には先客の男が一人いた。

 一人の兵士はそこに銃口を向け、一人の兵士は気に留めることもなく、リアンを蹴飛ばし部屋の中へと放り込む。


「新入りだ。仲良くしろよ」


 ブオン。

 兵士の捨て台詞とリアンを閉じ込めるようにして、『魔導障壁』がいつも通りの光沢を発する。


「なんというか、こんな状態であれなんだけど、奇遇だね」


「君がここに居る事に、私はいろんな不安が過るが……君からすれば、ここに囚われの身になる私は滑稽でしかたないだろ……」


 倒された床から起き上がるリアンを、カルデオが訝しむようにうかがいたたずむ。


「俺達を監禁しようとしていたあんたが、ここでは監禁されている。確かに笑えないな。けど、気にすることはないさ。俺はあんたの前じゃ、いつも捕まっている側だ」


 簡素な部屋の低い天井を仰ぐ、リアン両手の平。

 いつの間にか手枷を外していたその手の指は、針金を一本挟んでいた。


「なるほど……君は、その器用さで地下倉庫から脱出したんだな……」


「そうだけど――カルデオ、まずは俺の話を聞いてもらえると助かる」


 声音は硬くなり早口にもなった口調。

 リアンをそうさせたのは、カルデオが拳を握り締め険しい態度を示していたからだろう。


「まずは話してみるといい。ただし、下手な嘘や話の内容次第で私は覚悟を決めなくてはならなくなる」


「安心していい、そんなものはいらない。ダリーは丈夫だからいいとして、俺もシャルテもニイオには怪我やなんかは負わせていない」


 リアンはカルデオから緊張が解けるのを待つかのように、ぴたりと静止した。

 その後、お互いに大きく息を吸い、そして吐く。

 リアンの読み通りだったか、カルデオにとって息子ニイオの安否が緊張を解くものだったようだ。


「もちろん俺の口は硬いままだ。ただ、向こうは向こうでなんかいろいろあったみたいで、ダリーが見せしめになっていて、それでゾルグ将軍って奴のお陰で、ダリーの代わりに俺がここに来るハメになった」


「リアン」


 たった一言、名を呼んだだけであった。

 しかし、たったそれだけでも、カルデオの真剣さが伝わってくる。


「私は君を信じようと思う。だから頼む。私に詳しい話を聞かせてもらえないだろうか」



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