13 明くる日
◇ ◇ ◇
朝日に煌めく白き王宮。
ただしそこに王族の姿はなく、評議会にて行政を執り行う場所となった今はグック政府の中枢としての意味が強い元王宮となる。
建物は何者にも揺るぎそうにない分厚い石造りの立派なもので、箱が積まれたようにして佇む。
馬車が必要なほどの敷地の広さに見合う大きな箱を下層に構え、上階へ登るほどにその大きさは小さくなってゆく三層の造り。
角に三角の屋根帽子を被る白い壁には、端から端まで走る青を基調とした帯。それは透き通る海の青を彷彿とさせる色でレリーフもあしらわれている。
アスーニ大陸で王と名乗る者が住まう王宮や城と並べてしまえば、その外観はつづまやかなものである。
しかし一度建物の中へ踏み入ってしまえば、亡きグック王の尊厳が残したその豪奢な建築模様を目にできる。
そして回廊を行き交うのは、上下をひと繋ぎにする白に青い模様の民族衣装に身を包む高官に、纏う装備に優美な鷹を刻む皇国の兵士達。
歩いてくる皇国兵に、高官らは道を譲るようにして端を行く。
その高官らが向かうところ、上階へ上がる御階から辿り着くは最上層の一室。
磨かれた石材の床に落ち着いた色の絨毯が敷かれ、見た目の良い調度品が置かれる。
ここは執務室の役割を持ち、中央奥には行政を一任されるグック評議会代表レイニードの机が設けてある。
よって、娘盛りはとうに過ぎ去る齢であっても眉目良い彼女の姿がそこにはあるのだが。
「ゾルグ殿。皇国指揮官の貴方がここで油を売っていてよろしいので。そもそも私はここに、他国の使者である貴方を招いた覚えなどありません」
他の高官と同じ民族衣装の正装。
レイニードのブロンドの髪を束ねる頭はうつむいたまま、その顔が机上の捲る書類から離れることはなく、疎ましくも聞こえた声音だけが側の大きな気配に問うていた。
一般兵とは明らかに違う上等な装飾を兼備する鎧。
隆起する筋肉に沿うようにして張り合わされた鋼の胸当てには鷹が描かれていた。
鬼人である大男のがっしりとした大腿部がどんと机に乗る。
「そう俺様を邪険にすることもねーだろ。なあ、同志レイニード」
「その卑しい口で、同志などと私を呼ばないで頂きたいっ」
き、と音を立てそうな睨みを、戦傷の跡を残す逞しい顔はふてぶてしく受ける。
「その椅子に座れたのも皇国あってのものだろうよ。もう忘れたか。あまり恩義を感じてねー態度ばかりだといつかの議員みたく、ここでもボン、と爆発が起きるかもだぜ」
「私は……コーリオ議員のあの事件は……」
「ふっ、関係なくはねーよな? 俺様の配下が革命の民を偽り起こした扇動工作は反対派の組織体系を弱体化させた」
手の甲を覆う武具のじゃらりと鳴った金属音。
細い鋼のチェーンで編まれた燻し銀のグローブが、レイニードが腰掛ける椅子の背もたれをがし、とひとつ打ち叩く。
「その甲斐あって独立派議員だったお前はこの椅子に座れている。だよな、ええ? レイニード」
ゾルグが相手の耳元へ息を吹きかけるようにして言えば、レイニードは机上に肘をつき両手で顔を覆った。
「このままいけば、お前の望みの独立が叶う。皇国はそれを後押ししてやっている。だからこうして俺様が陣頭指揮を執り、反対派やお前に賛同しない革命の民を手当たり次第収容所送りにしてやっている」
「こちらからは独立後の平和協定を求めただけで、この現状は望んでいたものとは違うっ。それに、収容所の民を皇国の労働者として送る話も私は容認していない!」
「おうおう、それだそれだ」
椅子を押し下げ立ち上がるレイニードに、皇国指揮官ゾルグは何食わぬ顔で寄り掛かる机の上に腕を伸ばす。
女性の細い両腕が立つ間からは、重なる書類が無造作に掴み取られた。
「昨日の晩、少しばかり興味の湧く報告が俺様の耳に届いた。だからここにある収容所送りになった野郎共のリストをわざわざ確かめに来たが……駄目だな。元々まどろっこしいのが性に合わねー俺様が、こんなもんをちまちま読めるわけがねー」
書類がばさりと床の絨毯へ撒かれる。
それからゾルグは怒鳴るようにして部下を呼ぶ。
扉がばんと開けば、二人の皇国兵士が執務室へ駆け込んできた。
「昨日捉えた奴をここへ連れて来い! 皇国へ歯向かった刀剣を背に担ぐ二人組の件だ!」




