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チートサッカーボーイ・ネコワカ!

作者: 鬼京雅


「ヤル気!元気!発情期!これがスーパースター・ネコワカのゴールだ!」


『自陣のゴールラインから……敵のゴールネットにボールが突き刺さった……だと?』


スペインのとある二部の練習試合に突如道場破りのように参加し、ゴールを決めた謎の少年・ネコワカ。その日本人にまばらな観客と両チームの選手、監督などは呆然と同じ言葉を呟いた。そう、このギアナ高地の太陽にて赤くなった赤毛の日本人は道場破りとしてピッチ上の全員を抜き去り、試合に出させろと宣言し、今は白ユニホームである聖なる騎士団とも呼ばれるホワイトキャッスルのゴールキーパーとして試合に参加していた。試合時間は残り15分である。そしてその赤毛の少年は猫のように顔をかいて言う。


「……相手のキーパーが前に出てたから入ったけど流石に次は厳しそうだな。もうこのゴールから撃つのはやめるか」


『当然だ!』


と、ホワイトキャッスルのチームメイトだけでなく、敵チームのブラックボマーの面々も叫ぶ。突如現れた極東の少年にサッカー大国の二部のチームは大いに揺れていた。周囲の視線を独り占めする赤毛の少年は言う。


「ギアナ高地から海を走って来たらスペインだっただけさ。まぁスペインは攻撃的でテクニックのある国で流れ着いた先としちゃラッキーマンマンだぜ」


「ギアナ高地……?」


「コイツ何言ってやがる?」


「とんだクレイジー野郎だぜ。日本人は野球しか出来ないんじゃなかったのかよ……」


スペイン人達は一様に呟き出すが、日本人であるネコワカはその言葉を何故か理解していた。


「ふむふむ……なるほどな。俺はギアナ高地で動物の声もなんとなく理解してたからな。スペイン語もなんとなくで分かるぜ?」


すると、ブラックボマーのエースストライカーである黒髪トリ頭のスペイン人・イヌコーロは言う。


「動物の声がわかる?何を寝ぼけた事を言ってやがるジャポネーゼが!」


「いや起きてるし。常に俺はどこもかしこもビンビンだぜ!てか動物と話して動物とサッカーしてたからな。ギアナ高地で」


「は!?どんな動物だそれ!?」


「ライオンとかゾウとかキリンとか……鵺とか?」


「ヌエ!?ヌエってなんだよ!?」


「知らねーよ。色々な生物が混ざったバケモノだよ」


『オメーがバケモノだよ!!!』


と、またもやピッチ上の全員にツッコミを受けたネコワカは人間のツッコミというものに感動した。そして何故か照れる!


「いいねぇ……久方ぶりの人間のツッコミ。ライオンとかのツッコミはあやうく死にそうになるからな。やっぱツッコミはこうでなくっちゃ!」


ツッコミで死ぬとかどんなだよ……という思いを感知出来ない約一名のサッカーバカは全ての人間に驚愕されながらも、試合はリスタートとなる。

すると、ネコワカはゴールマウスからドデカイ声で叫んだ。ビビったブラックボマーのストライカーのイヌコーロは股間が竦みあがる!


「皆、ネコワカボイスを良く聞け!今は負けてるが2ー1のスコアなら逆転は楽勝だろ。自陣にいる時は全員マンマークだ!常に勝負所って感じで押さえ込め!まずは守備。勝つには守備からのカウンターしかねぇ!いいなホワイトキャッスル!」


『……おう!』


その言葉にホワイトキャッスルのメンバーは頷く。何故かこの極東から来た意味不明な赤毛の少年の言葉には説得力があった。そして、息を吹き返したホワイトキャッスルとブラックボマーの因縁の対決は両者譲らずの凄まじい展開になり、試合時間は残り五分となる。疲労が溜まり疲れた隙をつき、華麗な個人技で二人を抜いたブラックボマーのストライカー・イヌコーロのボレーがホワイトキャッスルゴール左上に飛んだ!


「これで終わりだ紙くずキャッスル!」


「いいシュートじゃねーかケンちゃん!」


「ケンちゃん!?」


と、イヌコーロが言った瞬間、ネコワカは三角飛びで際どいシュートをキャッチしていた。


「日本じゃイヌコーロってのは犬って言って、ケンとも読む。何かお前はケンって顔してるから今日からケンだ!」


「何だ……コイツ何を言ってやが……ーー野郎!」


瞬間、ネコワカは誰もパスを出さずにドリブルを開始した!

ゴールキーパーが独走!?とピッチ上の全員とまばらな観客も驚く。一人、二人……とネコワカは残り三分になる時計をチラッと見てエラシコ、シザース、ヒールリフトといったファンタジーな技を披露する。だが、背後には凶悪な猛犬が追走していた!


「舐めんなよジャポネーゼ。たった一人でサッカーが出来るかよ。ここで潰れろ野生児が!」


ズザァー!と背後からのカード覚悟のイヌコーロ……もといケンのスライディングタックルが炸裂した!歯を食い締めるネコワカはピッチに倒れ込む。すかさず審判はケンにイエローカードを出した。


「んんー……いいスライディングだ。ガッツリ足にきてたぜ。上手く試合の流れを切りやがったな」


「当然だ。ここで点を決められたら残り三分だろうが危険だ。サッカーは試合が終わるまでわからない競技だ」


「いい答えだぜケンちゃん。だが、ゴリラのスライディングの方がヤバイから余裕。お前はイエローもらったからもう後がねーな犬コロのケンちゃん♪」


「俺は犬コロじゃねぇ!イヌコーロだ!わかってると思うがウチのチームは高さがあるぜ。ホワイトキャッスルの10番は今はケガでいない。キッカーはどうせお前だろ?お前のキックはこの壁を越えられないんだよ」


「フリーキックは何も壁を越えればいいわけじゃねーよ。パターンは色々あるさ」


「ケッ、飛び入りの奴にパターンなんかあるものかよ。貴様が外したら次はコッチのカウンター。そして俺がゴールを決めてホワイトキャッスルは落城だ。あばよネコワカちゃん」


「いいねぇ……痺れるぜケンちゃん。挑発に挑発で返すなんて気組みが違うじゃねーか」


そして、ボールをセットしたネコワカは仲間に指示を出し、フリーキックになる。

壁はブラックボマーの選手全員が一列に並び、その真ん中に四人のホワイトキャッスル。残りのメンバーはウシワカの左右や後方に散る。直接狙うか間接的に誰かを使うかを、わからなくする布陣だった。


『……』


もう大半のホワイトキャッスル選手は足にきている状態だ。それにこの試合にはアディショナルタイムも無い。

カチッ……カチッ……と残り時間は確実に無くなって行き、ピピー!と審判の笛が鳴ると同時にボールの後ろに立つネコワカの更に左右後方の選手が走り出したーーと同時にネコワカとホワイトキャッスルの8番もキックの態勢に入る。

敵の壁の一部でポジション争いをする一人のDFメンバーは自分に寄越せと要求し、後ろに倒れた。


『ーー!』


その空白となる壁の穴に狙いを定めたのかーーと観客は思うが、ブラックボマーの面々は微動だにしない。

8番はキックの態勢からそのまま前のスペースに走り出し、キックはやはりネコワカがする事になるーー。

それを見た真ん中の壁に立つケンは吠えた!


「リベリーノの壁通しシュートを真似をしようとしてしないなんて無駄なトリックだぜネコワカ!誰がトリックを使ってもここで蹴るのはお前しかいねーだろうよ!つあーーーっ!」


ブラックボマーの面々はネコワカが蹴ると確信していて、一切他の選手に気を配らなかった。赤毛の少年が蹴ってからジャンプしたブラックボマーのスカイウォールが絶望の壁となる。ネコワカの右足キックはボールをアウトサイドで擦り上げるように大きく左方向へ流れた。

すると、一人の若いホワイトキャッスルファンの観客が叫んだ!


「ブラックボマーの奴等ホワイトキャッスルの選手の肩に手を乗っけて空中で停止してやがる!あれじゃ高さが落ちないから、ボールはクリアされるぞ」


ホワイトキャッスルの選手が壁の混戦で上手く隠れている為に審判から見えず、ファールを取られずにピンチになる。ネコワカの蹴ったボールは蹴った足の方向とは大きく外れるように弧を描いて空中で多少停止するケンの方向へ飛んだ。


「逆回転!?ア、アウトにかけてやがったのか?ぶ、ぶつかるーー」


ガコッ!とまるでケンを狙いすましたかのうなネコワカのアウトフロントキックは、ケンの顔の側面に直撃し、そのボールはキーパーも動けないままコロ……コロ……とゴールの隅へ吸い込まれた。そして赤毛の少年は天高く指を突き上げ叫ぶ!


「ゴール!!!ナイスヘディング!ケンちゃんの顔面狙いでオウンゴールだわさ。ミスキック!ミスキック!イエーーー!!!」


「痛え……つかテメー!何がミスキックだ!今のは狙ったな!?蹴る足の向きとは逆に飛ぶアウトフロントキックで意表を突いて驚かせて、驚異的なカーブで俺の顔面方向に来たのを俺が顔を背ける所まで読んで狙った。そしてキーパーが反応出来ない軌道でのゴールを狙った……ウゼェ野郎だぜ……」


「へぇ、いい洞察力じゃん。二部の選手とは思えねーぜケンちゃん?」


「ウルセー。コッチにも色々事情があんだよ。俺は本来なら一部のエースストライカー。次期スペイン代表レベルなんだからな!」


ケンは苦い顔をしつつも、顔を自分でピシャリ!と叩くとボールを拾いリスタートへ向かう。ほう?という顔をするネコワカはチームメイトの祝福を受けつつ、


「よし、これで同点だ!残り時間攻めるぞ!そして勝って終わる!」


『当たり前だ!』


完全に敗者のメンタルじゃないチームメイトにネコワカは安心した。そして、ブラックボマーにて一人異様な殺気を放つ男に視線を向ける。


(どうやらケンちゃんはマジになったな。奴はムードメーカーでもある。もうオウンゴール狙いは無理だな。ま、奴の情事だか事情はどうあれ勝つ事に変わりはないけど)


そして、ブラックボマーのリスタートをした瞬間、何故か赤毛の猫がそのボールを掻っ攫った!その少年はやはりーー。


『ネコワカ!!!』


その速さと大胆さに全ての人間が度肝を抜かれた!

まさかゴールキーパーがいきなりここまで上がって来るとは誰も思わない!残り時間は一分少々ーー果たして、このままネコワカの奇襲は成功するのかーー。

三人、四人……ブラックボマーは一気にネコワカ一人に抜かれ、ホワイトキャッスルの面々もネコワカを援護するように縦や斜めに駆ける。まるでタイダルウェーブのような白い津波にブラックボマーは自慢の爆撃をする事が出来ない。そして、ネコワカは最後の砦であるセンターバックを飛んで抜いてペナルティーエリアギリギリにいたゴールキーパーさえもかわした。


「よし!後はゴールに流し込むだけだ!ここで決める!」


「甘ぇよ猫野郎。俺の爆撃で散れ」


「ゴールキーパーの後ろにケンが隠れてた!?うわっ!」


ゴールキーパーの後ろに隠れていたケンはネコワカのボールを蹴り上げた!そして無情にもそのボールはセンターサークルを越えて無人のピッチに落ちる。瞳を閉じて勝った……と確信するケンは拳を握る。


「後はゴール前を固めれば勝ち。だが今ので心が折れて立て直しは出来ないだろホワイトキャッスル……そしてネコワカ!」


その開かれたケンの視線の先にネコワカはいなかった。そう、ネコワカは反転して凄まじいスピードで自陣に戻ってクリアボールを受けていたのである!そのままネコワカはチームメイトの思いを体現するようにシュート態勢に入ったーー焦るケンは自慢のトサカ頭をかきあげ、


「このスーパーロングシュートは俺様が防ぐ!そして貴様の負けだネコワカ!」


「サッカーは試合が終わるまでわからない!それを言ってたのはオメーだろケンちゃん!これがホワイトキャッスルの……最後の一撃だーーーっ!!!」


シュパアァァァ!と閃光のような光のシュートがブラックボマーゴールに向けて放たれた!それを防ぐ番人となるケンは両手を後ろにやり、残る身体の部位で止めればいい!と覚悟を決めた。そのネコワカのシュートは急速に上昇し、そして急速に落下した。このシュートは正しくーー。


「ドライブ回転……ドライブシュートだったのか!?ヤバっ……うおっ!?」


ズゴン!とそのシュートはケンには当たらずにゴールバーに直撃した!興奮したのかワン!と犬のように吠えた本名イヌコーロであるアダ名がケンのケンは、


「へっ!アブねぇ……俺様がこんな事をしなくても勝てたな。ったく、ペテンじゃ勝てんのよね」


「おい、犬コロ。試合はまだ終わってねーんだよ」


「?なっ……!?」


瞬間、ケンは獰猛な巨大怪獣に出くわしたかのように身体が萎縮し、目の前の悪魔を見た。その赤毛の悪魔は、バーに嫌われたボールに右足のダイレクトボレーを叩き込んでいたーー。


『あっ……』


という観客の声と同時に、その赤毛の異端児は天にドリルを突き刺すように高々と指を掲げていた。


「ゴール!ネコワカ選手、スーパーロングドライブシュートをわざとゴールバーに当て、その跳ね返りをスーパーダイレクトボレーで鮮やかに決めましたーーー!!!と、自分で言う……照れるぜ」


と、何故かネコワカは自分で自分のプレイを解説して少し照れていた。よくわからない男である。

かくしてスペイン二部の練習試合において伝説の選手の誕生となった。そして、その伝説の選手である赤毛の少年・ネコワカは色々な人間にサインをしたり握手をしてから今日の因縁の相手であるイヌコーロ事、ケンに現在の日本サッカーの状況を聞いていた。


「……今の日本は強いぞ。徳川埋蔵金を掘り当てて経済が潤った金の力で世界各国の元代表選手を買い漁ってリーグ全体が強化されてる。質の良いパサータイプを買ってるから点を決められるFWが育ってる。だから得点力がある国になってやがるんだ。お前が二年ギアナ高地で修行してた間に色々変わってるんだよ」


「俺のいない二年でそんな事がね……つか、徳川埋蔵金ってそんな効果あんのかよ?ま、日本が決定力を上げて強くなった事はいい事だぜ」


「ちなみに今の日本代表のF.I.F.A.ランキングは5位。格下相手にポイントを稼いでるって言われてるが、実力は本物だ。すでにフランス、ドイツ、イタリアも負けてる。二年後のワールドカップじゃ、優勝候補にも上げられてる国だ。お前の国はよ」


「なーる。ギアナ高地で修行した成果はヨーロッパよりも日本で示す必要があるのか。まーいいさ。俺はスペインでまず結果を出す。今からならワールドカップメンバーに入るのも可能だ。やってやるぜこのネコワカ様がよ!」


不敵な笑みでネコワカは指を突き上げ叫んだ!

するとにじり寄るケンは自慢のトサカ頭を逆立たせながらネコワカを指差し、


「俺もギアナ高地へ行くぜ!貴様に出来て俺に出来ない事は無い!一年修行して貴様を超える!俺はスペイン代表としてワールドカップを取る男だ!」


「あーそう?んじゃ行ってこい。イカダはそこの川の草むらに置いてあるからよ」


「おう!とりあえずルートはどう行けばいい?だいたいでいいから教えてくれ」


ネコワカは川の草むらに向かって歩きながらケンにギアナ高地までのルートを説明する。


「方向はまず下だ」


「まず南って事か。次は?」


「Rだ」


「英語のレフト?左となると西か……」


「次に上L」


「北にライト……東?何かルートおかしくね?」


「んでYBXAだ」


「YBXA?何かの呪文かよそれ……ってうおー!」


無理矢理ケンをイカダに乗せたネコワカはそのままイカダを押して一気に大海原へと放り出した!ワオーン!と吠えるケンに手を振ってからパンパン!と手を叩き、


「やっと小うるさい奴も消えた。とりあえずホワイトキャッスルの入団テストはパスした。次は一部の連中相手に勝って、トップレベルのサッカー選手として認められて日本代表を目指す。よし!ヤル気!元気!発情期!だぜ!……どこからか発情期の犬が五月蝿いが、とりあえずみんな俺について来いよ!


『おう!』


ホワイトキャッスルのメンバーはこの赤毛の少年のカリスマ性にすでに惹かれていた。サッカーで繋がった友情の始まりとしてネコワカは夕陽を指差す。


「じゃあ皆であの夕陽に向かって叫ぶぞ!せーの……」


『ヤル気!元気!発情期!!!』


こうして、ネコワカを中心に聖なる騎士団・ホワイトキャッスルはスペイン一部チームとの試合に挑む事になり、一部昇格を決めてチャンピオンズリーグで活躍するレベルのビッグクラブへと飛躍する。

そして、やがてスペイン代表としてネコワカのライバルになるケンの行方は……誰も気にしていなかった。だが、ケンは一年後に漂流者のように帰国しスペイン代表になり、本物のエースストライカーとして狂犬のケンとして覚醒する。

ギアナ高地での武者修行が終わった赤毛少年・ネコワカの、個人とクラブ……全てのタイトルを手にするオールバロンドールと呼ばれるチートサッカー伝説はここより幕を開けた。

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