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3 「村で猟師見習い」

村に訪れてかれこれ二カ月が経った。俺はこの二カ月おっさんの家の世話になっている。


行く宛もない俺をおっさんは泊め続けてくれている。食事も一緒にしている。

意外と言えば失礼なのだが、おっさんは既婚者で3人の子持ちだった。奥さんは若いなかなかの美人さんだった。日本で見るような化粧で染めたモデルのような美女とは気色が違うが思わず見惚れてしまうような美人さんだった。顔もそうなのだが雰囲気からして惚れてしまいそうな人だった。


つい年齢を聞いたのだが24歳だった。7歳の子がいるというのにだ。おっさんとはなんと15歳で結婚しているのだ。しかも、おっさんおっさんとずっと言ってきたがまさかの25歳だった。俺と4歳くらいしか変わらなかった。聞いた時は、思わず「うぇ!? 」と奇声を上げてしまったぐらい驚いた。

無精髭を生やして、無愛想で長身で立派な体躯をしていて強面なのだ。俺と同年代くらい若く見えるかと言えば否である。


三十代から四十代ほどと考えていた。

だけど、言われてみれば納得できる点もなくはないので、思い込みって怖いなーと思った。


年齢を勘違いしてたことをおっさんに正直に話すと奥さんはコロコロと笑っておっさんは顔を歪ませて「これでもアスタとは幼馴染だ」と言われた。アスタとはおっさんの妻の名である。

で、俺も年齢を聞かれたので21と素直に答えた。夫婦揃って驚かれた。

俺は17ぐらいと思われていたらしい。えー、と思わなくもないが、確かに高校生から変わったかと言えば大して変わってないので仕方ないのかもしれない。おっさんの子は上と下が女の子で真ん中が男の子だ。

上から7歳、3歳、1歳だ。どの子もみんな可愛い。


俺は、自由に過ごさせてもらっているが三日に一度はおっさんの狩猟の手伝いをしている。口数は少ないけどおっさんは面倒見がよくて、狩りのイロハや動物の解体などを手取り足取り丁寧に教えてくれた。おっさんは中々に教え上手だと思う。


日本にいた頃と比べてよく体を動かしているので随分と体力がついた気がする。まぁそれでもおっさんには負けるんだけどな。


おっさんの狩猟は罠も仕掛けるが、直接弓矢で仕留めることが多い。罠で捕まる動物は少ないようで、ここ二カ月で俺は一度しか見ていない。


おっさんが狩る動物、というかモンスターは木鹿、大牙猪、風鼬、大蜥蜴、蔓蛇だ。


木鹿は出会った時におっさんが背負っていたのと同じ鹿だ。鹿の見た目をしているが角の代わりに木を生やしている変わった鹿だ。木と言っても葉が生えているわけではなく木の質感で枝分かれした木のようで先が鋭く尖っている。

おっさんの話だとこの木鹿は角を一生のうちに一度しか生やさず、年月を経るごとに少しずつ大きくなり枝分かれしていくそうだ。

その角は木の幹のように年輪ができる。角には血管が通っているので折れると血が吹き出す。

木鹿の角は杖などの魔力触媒の素材として高く売れるそうだ。

因みに杖は魔法の補助として使う道具だ。やはり魔法と言えば杖らしい。


大牙猪は、立派な白い牙を生やした大きな猪だ。

その巨体に見合うタフさと突進力を持っている。おっさんに矢を射られて怒った大牙猪が障害となる木々をへし折りながら迫ってきた時は思わず逃げそうになった。その大牙猪はおっさんが右目を射抜いてきっちり仕留めた。その日は大牙猪の解体で潰れた。


肉は多少獣臭いというか独特の癖があったが悪くなかった。毛皮は綺麗に仕立てれば高く売れるそうだ。


風鼬、これは茶色い毛並みに尻尾が緑色なのが特徴のモンスターで、なんと空気の塊を飛ばしてくる。当たると結構痛かった。鼻に直撃した時は涙が止まらなかった。

この風鼬は尻尾が魔法の触媒になるだけでなく毛皮も大牙猪の何倍もの値段がつく希少なモンスターだった。おっさんは、風鼬の片足を射抜き、風鼬が痛みでその場でもがいたところを瞬く間に距離を詰めて首を鉈で掻き斬った。因みに、俺が負傷したのはその時風鼬がおっさんに苦し紛れに放った攻撃の流れ弾だった。


大蜥蜴は、見た目こそ蜥蜴だが大きさはワニに匹敵するモンスターだ。くすんだ緑色の体色は森の中では保護色になって巨体でありながらそこそこの隠密性を持っていた。おっさん曰く、個体によって個性がよく現れるモンスターのようで、気性の大人しいものや人懐こい大蜥蜴は、馬の代わりに荷車を引いていたりするそうだ。そして、俺が出会った大蜥蜴は臆病だった。おっさんの矢を硬質化した皮であっさりと弾くと意外な素早さで岩と地面の間に出来た隙間に逃げられてしまった。

矢や剣を弾いてしまう大蜥蜴の皮は防具の素材として価値があるらしいが、あまり傷をつけずに仕留めるのは至難の業らしい。なので臆病なら大した危険もないだろうと言っておっさんはあっさりとその大蜥蜴を諦めた。


蔓蛇は、緑色の斑模様をした2メートルくらいの蛇だ。

木に絡みつくようにして蔦に擬態して隠れていて、木々が生い茂った薄暗い森の中だと見つけにくい。

毒はないみたいだけど、木の上から人間の首に巻きついて窒息させてくる恐ろしいやつだ。ただおっさんが簡単に見つけてくれるので危険な目に遭うことはなかった。この蔓蛇の肉、焼いても美味いが煮るとすごく旨くスープとの相性は抜群だった。蔓蛇は、おっさんに見つけられ次第射殺されて、その日の晩の絶品スープの具材となった。


これは俺が同行した時におっさんが狩った獲物なので、他にも俺がまだ出会ってない様々なモンスターがこの山にはいるそうだ。



またモンスターもそうだが、食用となる山菜や薬となる薬草がこの山には多く自生していて、中には一株で無傷の風鼯一体の値段に匹敵するほどの高価なものもあるそうだ。まぁ、滅多に見かけないらしくおっさんも実際に採取したことはないらしいし、そこまで高価な薬草というのはどれも滅多に手に入るものではなかった。それでも飲めばすぐに怪我が治るファンタジー定番の魔法のポーションの素材となる薬草は、群生地を見分けるコツさえ身に付ければ、下手にモンスターを狩るよりも安定した収納を得ることができたりする。実際、未だにモンスターを一匹も狩れてないけど、山で採取した薬草などを売って僅かばかりのお金を貯めることが出来ている。

それに、怪我などを負った時に必要な薬を持ってなくても、自生している薬草で代用できることもあるので生きる上でも覚えていて損はないのだ。

山で転んで盛大に足を擦った時もおっさんがその辺で採ってきてくれた擦り傷に効く薬草を使って手当してくれたおかげで二日という速さで治ったりしたのだ。………いや、ふつーに考えればいくら効くと言っても薬草を傷口に塗り込むくらいでこんなに早く外傷が治るのはおかしいことだけど、異世界だし考えるだけ仕方ないのかもしれない。その治る速さにおっさんも少し首を傾げてたけどな!



あと、村に住んでいるおっさんの家族以外の村人たちとも顔を合せれば軽く言葉を交わすくらいには交流をしている。調味料は奥さん連中に受けがいいし、シャンプー類は若い女性や奥さんを中心にかなり好評だ。湯沸し器は、火いらずの便利なアイテムだけど高価な魔導具をぽんぽん上げるのは止めといた方がいいと言われたので、おっさんと薬師の爺ちゃん婆ちゃんの家に二台しかあげてない。あ、でも魔導具と同様にここらでは高い嗜好品に該当する飴は普通に子供とかにはあげている。子供にはタダで、大人には欲しいものと物々交換をしている。特に甘党の雑貨屋のおっさんからは、旅とかの必需品として色々もらったりした。頑丈で大きな背中に背負う形の鞄、背嚢(バックパック)はおっさんと山に行く時とかに愛用している。

靴は、異世界に来た時に履いてる地球産の方が履き心地とかを考えるといいので、そのままだ。あ、でも山を何度もいってるとダメになったので、今は複製魔法で生み出した靴を履いている。雑貨屋のおっさんが興味を持っていたので一足上げた。代わりに火を起こす便利な魔導具とちょっとした魔物避けの結界を張る魔導具をもらった。結界を張るのはそれなりにするらしいのでいい買い物だったと思う。


おっさんに次いでよく村の人でよく交流していると言えば、薬師の爺ちゃん婆ちゃん達の2人だろうか。マチルダおばさんは、顔を合せると一方的に話しかけてくるけど、毎日顔を合せるわけでもないからな。

薬師の方は、山とかで薬草とかをとってくるのでよく渡しにいくのだ。あと、俺としても即効性のポーションには興味があるのでよく顔を出している。よそ者の俺に薬師の爺ちゃん婆ちゃんは意外と友好的だ。

薬草を磨り潰したり、薬草を乾燥させたりするのを手伝っているのもあるが、すぐに熱湯を沸かせる魔導具となっている湯沸し器をあげたのが俺が思っている以上に好評だったらしい。俺が採ってきた薬草を使った薬の効能を教えてくれたり、手軽に作れる傷薬の作り方を教えてくれた。流石にポーションの作り方は教えてくれなかったが、側で見る分には何も言わなかった。雑貨屋のおっさんとかには気に入られてるなと言われてるので、多分そうなんだろう。




おっさんの話だと、あと一か月くらいで村に行商人がくるらしい。


俺はそれを期にこの村を出ようと思っている。

俺はここから一番近いところにある街で、ギルドに登録して冒険者になろうと考えていた。


あと、一か月。その間にこの村で出来る限りのことをしようと思っている。




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