父瓊樹は、本人も気にするほど姿が幼いです。
「大丈夫だよ!!讖羅。お父さん、歩けるから」
一番年長の少年から青年に成長する途中の印象の讖羅は、
「いえ、父上。父上が歩くと、珠樹も真似ますから」
「おらぁ!!珠樹!!良い子にしろ!!」
「やぁの!!珠樹あしょぶの!!」
「お姉ちゃん?めーだよ。お姉ちゃん。転ぶと泣いて、どっかんどっかんするでしょう?」
兄の碧樹に抱かれ、バタバタ暴れていた珠樹は、
「絳樹は、あしょばないの?」
「沙棠樹が心配で、見に行くんだよな?瑤樹姉さんも物好きな」
「お黙りなさい!!玉樹。あの子は私たちの兄弟!!お祖父様の命令とはいえ……あのように!!」
唇を噛む。
と、
「違いますよ……瑤樹」
姿を見せたのは、珠樹とさほど変わらない幼い子供……。
「母上!!」
玉樹が母の彰代を抱き上げる。
「沙棠樹は……目を覚ますと、危険なのです」
「珠樹よりも?」
玉樹の問いかけに、珠樹はうるうるとし始める。
「珠樹は雷の女神……春の訪れを祝う神です。沙棠樹は……破壊の神です。お父様を失うことになるのです。慧名様は、玲瓏様を起こそうと、お父様を苦しめてくるかもしれません。愛情と憎しみ……相反する想いに、あの方は苦しむとわかっていらっしゃるのに……破滅への道を選択しようと……それでは駄目なのだと、愛おしさと憎しみは表裏一体。玲瓏様がお父様を、慧名さまに遺した意味を知っていただければ……」
黙り込む周囲に、
「では、父上。私が地上を静めに参ります」
「讖羅!!駄目だよ!!お父さんが頑張るから!!だから!!」
「いいえ……私が、樹木の精霊の神である彼に、確認したところ……」
静かにたたずむ幼い緑の髪の少年。
「このままではバランスが崩れ、父上に益々負担が……」
「お願い致します。まずは一つの苗を……一つの種を撒くことのできる大地を……お願い致します」
「……解ったよ。でも、讖羅。お前はお父さんの息子!!必ず、必ず帰ってきなさい!!良いね?」
瓊樹の声に、讖羅は微笑み頷いたのだった。