刀匠の世~短編ver~
「お師匠様~早くしてくださいよ~」
「ひぃ…ふぅ…老人を…ふぅ…急がせるんじゃないよ…ひぃ…ふぅ」
山道を二人…いや一人と一羽で登る。
人の方は刀匠見習い/夜桜雅。鳥の方は自称伝説の名匠/櫂源太郎、私のお師匠様だ。
私はお師匠様の盗まれたた刀を唯一の弟子として手伝っている。
お師匠様は刀を取られたときに呪いをかけられたらしく、今は鳥の姿と言っているけどほんとにそうなのかは分からない。お師匠様は変な剣ばっかり作ってるしなぁ。
「お師匠様!村が見えましたよ!」
「マジで!」
お師匠様は颯爽と私の前を走っていく。
走れるんじゃん、やっぱりこのお師匠様が伝説の名匠だなんて信じられないなぁ。主に威厳が無いし。
「ん?今お前失礼なこと思っておったじゃろ。」
「え?い、いやそんなこと無いですよー。」
たまに鋭いから困る。
「ともかく村に向かいましょう、村に。」
ついた村は饗の村。にぎやかな村と聞いていたが声一つ聞こえない。
いや、奥のやしきから笑い声と泣き声が聞こえる。
「お師匠様。」
「うむ、人助けはするべきじゃ。しかもわしの刀の気配も感じる。」
「なら余計にですね、早く向かいましょう。」
「ゲッハッハッハ!この村は俺達【凶狼】がいただくぜ、ゲッハッハッハ!」
屋敷の塀から覗いていると、小太りの肌が黒く焼けたいかにも山賊というような男が庭に立っている。
「お師匠様、どうします?」
「門から堂々と、という訳にはいかんじゃろうな。」
「じゃあこのまま塀を越えて、」
「待て、人質が奥にいるかも知れんじゃろ。少し様子を見よう。」
「分かりました。」
いざというときには頼りになる人だ。だから尊敬できるというのもあるのだが。
「お願いします、どうか村のものだけは返してください。」
村長が泣きながらに必死に頼み込むが山賊のボスは知らんふりする。
「ふん、どうせお前も死ぬんだから変わりないだろ。」
そういって村長に向かって剣を構える。
「雅、行け。」
「言われなくてもっ」
瞬時に塀から身を乗り出して小太刀で山賊の剣をはじく。
力が足りなかったのか剣はまだ山賊の手に握られたままだ。
「てっめぇ何しやがる、おいお前らやってしまえ!」
手下達の方を見た山賊のボスは目を見開いた。
そこには十数人の手下が全員一羽の鳥にやられているからだ。
「お師匠様、刀どうやって持ったんです?」
「馬鹿もん!小太刀くらいなら持てるわい。」
「刀さえ持てればそのくらいなら倒せるんですね。」
「うるさいわい、お前は前にいる敵に集中せい!屋敷の中はわしに任せろ。」
「分かりました。村長さんを頼みます。」
村長さんをお師匠様の元へ促す。
「てめぇら、こんなことしてただで帰れると思ってねぇよなぁ。」
かなり怒っている様子だ。
「早く屋敷の中へ。お師匠様も危ないので中へ。」
「おう、気を付けい。」
「さあ、邪魔な人たちもいなくなりましたし後はあなただけですね。あなた、お師匠…櫂源太郎の刀を持っていますね。それをただちに返しなさい。」
「ああん?なんでお前にこの刀を渡さなきゃなんないんだぁ?お前が櫂源太郎の何だって言うんだよ。」
「私は櫂源太郎の唯一の弟子です。これを見れば分かるでしょう。」
一枚の紙を前に突き出す。
「お、おめぇそれは櫂家の紋…。」
「これを見ても返さないのなら…」
「うるせぇぇぇ!!」
大きく振りかぶって太刀で私を斬りつけようとする。だが、遅い。
スン、と音がしただけで軽く小太刀で受け止める。
「あれ?ボス格でもこの程度ですか。あと人の話は最後まで聞きましょう。これを見ても返さないのなら、強行手段にでます。」
相手の剣をはじいて、少し腰を落とし小太刀を逆手に持って構える。
「やっろう、なにが強行手段だ!女に何が出来るんだよ!」
また大振りに斬りつけてくる。脇ががら空きだ。
「まだまだですね。」
柄で相手の脇腹を突く。うぐっと声がしてボスはその場に突っ伏す。
「私をあまりなめないでください。さあてとお師匠様の刀は…」
いきなりボスが振り向き緑色の刀身の刀を振りかざす。
その瞬間、私の服の右肩部分が消えた。
「え?」
「ゲッハッハッハ!櫂源太郎の刀はここだぁ!」
「なんですか///この刀は!」
「あーその緑色の刀身と光り方はあれじゃな。【消天女衣刀】(きえるてんにょのころものかたな)か、名の通り女性の衣服だけを斬る、というか無くす刀じゃ。わしが二十くらいの頃に作った刀じゃったかのう。」
「あ、お師匠様!中の人達は?ていうかなんて刀作ってるんですか!」
「しょうがないじゃろう!二十だぞ二十!ずっと刀匠生活続けてればちょっとはそういうの作りたくなるわい!」
「まあそういうことだ。見たとこ結構胸もあるし消し応えがありそうだなぁ!」
「いいぞもっとやれ!じゃなくてなんて卑怯な!わしの刀を返さんかい!」
「…はぁ。まあいいでしょうあなたの太刀筋はもう見切りました。」
「へっ。それはどうかなっと!」
ボスの姿が一瞬で消える。
「こっちだよ!おらぁ!」
後ろから刀を振る音が聞こえた。だが後ろを向いた時には遅かった。
背骨の部分に風を当たるのを感じた。と同時に服が軽くずれ落ちた。
ずり落ちた服を押さえながら立ち上がりボスに向かって言う。
「呪符とは卑怯なことを…」
「この速の呪符とこの刀さえあれば俺は無敵な上に金も稼げるからなぁ。なんたってこの刀は俺が見えてる範囲すべてが間合いだからなぁ!ゲッハッハッハ!」
どうしようか…あの力はお師匠様に人に使うなと言われている。だが小太刀では間合いが違いすぎてかなり厳しいし。
「おらぁ!そんなもんかぁ!」
どんどん私の服が消えてとうとうさらしと袴だけになる。
このままだと服がすべて斬られる…
「おい、雅!間合いが違いすぎて無理じゃろう、殺さん程度なら力を使っていいぞ!」
お師匠様からお許しが出た。ニヤッと笑い私はゆっくりと立ち上がる。
子太刀をしまい、右手を横に突き出す。そして唱える…
「我のうちに秘められし闘心よ、いま刀となりて我の元へいざなわれたまん。」
右手の辺りが光る、やっぱり真横で光られるとまぶしい。
「一ノ太刀、時雨ッ!」
青い片刃の刀が目の前に現れる。それを右手でつかみ刀を上に構え左手で支える独特の型をを取る。
「さあ、覚悟は出来ましたか?これを出した以上あなたに勝ち目はありませんよ?」
「ふっ、いままでやられていたやつが何を。これでお前の胸が拝めるぜぇ!」
速の呪符で強化されているボスは確かに速い。でも…見切れない速さじゃない!
「まだまだ甘い。」
静かに峰で押し胴を当てる。
「ぐっ。ふん、確かに強化はされているようだが、俺に速さで勝てると思ってるのか!」
ボスの速さがぐんと増した。
「この速さがお前に見切れグァッ!」
私も同じような速さで間をつめ、背中を軽く斬りつける。やっぱりこのボス、剣の腕はまだまだだ。
終わりにしよう。
「これで決めます。」
時雨を腰元に構え、居合の形を取る。ボスはまだうめいている。
「時雨ノ型 壱式 一閃居合!!!」
最後の一撃は 切ない
静かにボスは沈む。私の勝ちだ。
「ふむ、かっこつけてるとこ悪いんじゃがお前今、さらしにパンツだけじゃぞ。」
「えっ!キャー見ないでー。」
恥ずかしい、恥ずかしすぎて死にそう。勝ったのに負けた。
やがてゆっくりとこう言う
「見たやつ、全部、斬る、絶対、」
「え?お前今なんて。」
「時雨ノ型 弐式 閃光!」
お師匠様を除く全員がそのばに倒れる。
「くっお師匠様はさすがに殺れないか…」
「おしちょっと待て、わしはお前に教えて、」
「ええーいうるさい問答無用!乙女の下着を見たんだ!もうお嫁にいけないじゃいですかー!」
「ちょっと待てお前村人殺したのか?」
「いや峰打ちですけど。」
「じゃあなんでわしには刃先を向けるんじゃ?」
「…」
「…」
「服…さっさと着るんじゃ。」
「…はい。」
「いやーありがとうございます。助けていただいた上に何一つお礼が出来ませんでしたが。そういえばそこの鳥さんに助けていただいたあたりから記憶が無いんですが?」
「え、いやえっとあのーそんなにいい事でも無いですし早く忘れることが出来ていいじゃないですか、あっはっはー。」
自分でも笑えないくらい乾いた笑い方だ。
「まあ、そうですね、本当に何から何までありがとうございました。」
「いえいえ、ではまた。」
「はい、ありがとうございました。」
村長さんはずっと村の入り口でおじぎをしていた。
「それで?何も罪の無い村民を峰打ちで沈めた雅さん?今のお気持ちはどうじゃ?」
お師匠様がニヤニヤしながら見てくる。
「乙女の裸を見たんだから記憶を無くすくらいの峰打ちくらいはいいでしょう。それに…」
「それに?」
「お師匠様の記憶も消す必要がありますね…。よし今たたっ斬って炭火でじっくり焼き上げてタレ付けていただきましょう。」
「ちょ、おま、いくらわしでも今の状態でお前の剣は止めれな、」
もうすでに私は時雨を出している。
ニコッ
「にっげるんだよぉぉぉ!」