悪役令嬢二周目。~汚嬢様の逆襲~
うっぜぇ、こっち見んな。どアホ。
私はニコリと品良く微笑むとそう心の中で毒づきました。
性格悪いなお前?
確かにその通りです。
でもしかたないのです。
私は目の前の人物を世界で一番憎んでいるのですから。
業徳院 佐織
それが私の名前です。
実は私には秘密があります。
二週目なのです。
人生を送るのが。
前の人生ではあのクソアマァッ……ではなく、同級生の奸計に陥れられて社会的に抹殺。
そんな私の末路は家から追い出されたあげく、年をごまかしてキャバクラで働いて、やっとの思いで借りたアパートにて隣の部屋からの出火で焼死です。
焼死って超苦しいんですよね……
あの苦しさは三代祟るレベルです。
死に行く私は思いました。
「なんで野郎の尻を追いかけただけでここまでされなきゃならんの?」って。
そしたら腹から怒りがこみ上げましたね。
絶対にあいつらに仕返ししてやる。
全員破滅させてやるって心に誓いましたとも!
きっとその祈りが神様に通じたのでしょう。
気がついたら事件の一年前に戻ってました。
これは悪役令嬢二週目の私がバカどもを地獄に叩き込むお話です。
の……はずです……
◇
さて冒頭に戻りましょう。
私の目の前にいる口を開けてポカーンとしているバカは前の周回で私が追っかけていた男です。
美形ですが、今は見るのも嫌です。
そもそも破滅した前の週でも親の命令で狙っていただけで顔見て欲情したとかは一切ありません。
どうしても私の目も鋭くなります。
一条 玲央那瑠斗
っぷ! DQNネーム!!!
遺伝子を無視した金髪。
髪の毛掴んで振り回したら楽しそうな細い毛。
なんかバックに花が咲いてる笑顔。
殴っていいですか?
ところがメンチ切っていた私に空気を読まずにこの野郎が話しかけてきました。
「佐織さん。いい朝だね」
朝に良いも悪いもあるか。
「ああ、すみません。話しかけないでください」
私は話をするのを拒否しました。
だってコイツ嫌いなんだもん。
だってあのクソアマァッ……じゃなくてあの女性が泣きついたら、人の話も聞かずに親のコネを使って私が勘当されるように追い込んだのです。
はっきり言ってコイツがいなければ私は死にませんでした。
ああ。それなのに……
「つれない態度をとらないでくれ。僕たちは許嫁じゃないか。子猫ちゃん」
きらん☆
白い歯が光ります。
ごめん。生理的に無理。
あー! あのツラに拳叩き込んで前歯をへし折ってやりたい!
私はあのツラを見るたびにイラッとするのです。
いつかこの顔泣き顔にしてやる。
私は笑顔を作りながら拳をぎゅうっと握りました。
◇
学校にやってくると、友達のユリちゃんがいました。
同じ部活なんですよ。
テニス部?
馬術部?
茶道部?
あいつらみんな死ねばいいのに♪
もちろん自分の人望のなさなど省みません。
連中は私が無実の罪を着せられたときに黙っていたビッチどもです。
顔も見たくありません。
え? じゃあなんの部活なんだよ?
それは……
「さっちゃん! 星空先生の新作手に入れたでゴザルー!!!」
漫研ですがなにか?
私は血走った目でユリちゃんが差し出した薄い本を受け取ります。
「うけけ。こ、今回も実にけ、けしからん内容でゴザルな!!! じゅるり」
お前令嬢じゃないのかよ?
るっせ! しらねーよ。
もう令嬢は店じまいです。
好きなように生きることに決めたんです!
前から少し興味はあったんですよ。
世間体が悪いから見なかっただけで。
私!!! 解・放!!! きらきらきらりーん♪
ちなみに前世では接点のなかった漫研のみんなはとてもいい人たちばかりです。
普段虐げられているせいか他人に優しくできる子ばかりです。
温かい人間関係って良いなあー。
ほんとしみじみそう思うのです。
本は薄いけど。
あと腐ってるけど……
てめえさっさと復讐しろボケ?
ですよねー。
大丈夫。サクサク行きます。
人間立場が変わると見える風景もまた違うものになります。
例えば、腐の立場から世界を見ると……
ねえ?
◇
「やあ春人。話ってなんだ?」
玲央那瑠斗が宮村 春人へ向かって言いました。
春ちんは玲央那瑠斗(笑)の友人です。
彼は玲央那瑠斗が話しかけると女子の好感度を教えてくれるなどの謎機能を持った生きものです。
前世の私では全く理解できませんでしたが、フォースのオタ面に踏み込んだ今の私なら全方面ツッコみどころ満載の生き物だとわかります。
そして違う角度から見ると彼の本当の姿が見えてきたのです。
そう違う姿が。
大きな声で春ちんが言いました。
キャー! 春ちんがんばれ!!!
「玲央那瑠斗! 俺はお前のことを!!!」
きゃー!!!
私は小躍りしました。
前はわかりませんでした。
でも今はわかります!!!
春ちんの玲央那瑠斗を見る目!!!
それは友人に向けてのものではありませんでした。
その目はまさにビースト!
GOGO! 春ちん!!!
それにしてもそそのかすのは簡単でしたね(ゲス顔)
ひゃっはー! 悪が栄える時代なのらー♪
「っちょ! おまッ! なに言ってやが……」
がたたっと音がしました。
机にぶつかったようです。
がたんッ!
あ、コケた。
「玲央那瑠斗! 俺の思いを受け止めてくれ!!!」
「っちょ! なんで扉が開かない! や、やめろ! 寄るな! やめろおおおおおおおッ!」
超ガチャガチャ言ってます。
開きませんよー。うふふ。
「玲央那瑠斗!!!」
「やめろおおおおおおおおおおおッ!」
きゃいーん!
負け犬の泣き声って心にしみますよね。
大満足の私はキーホルダーに人差し指をツッコんでくるんくるんと鍵を回しました。
春ちん。
ありがとう。
きみの勇姿は四台のビデオカメラで撮影させてもらったよ。
私は心の中でハイテンションで親指を立てます。
あとでユリちゃんと見ようっと。
るんたったー。
るんたったー。
私はスキップしました。
戻るのは一時間後ですかね。
◇
さて、一人撃墜しました。
次は誰を地獄に落としましょうかね。
うふふふふふふふ。
私はご機嫌で家に帰りました。
まずやることは家族がいないかどうかの確認。
それが終わると、全てを脱いでパンツ一丁になりました。
いやーキャバクラの寮と言う名のたこ部屋暮らしを経験すると人間色々と雑になりますよね?
その次に私は冷蔵庫を開けました。
お、あったあった!!!
私はビールの缶を取り出すとプルタブを引っ張って開け一気に口の中に流し込みました。
ぷはーッ!!!
おい令嬢(笑)。お前の家金持ちなんだからワインとかのクソ高い酒があるだろが?
ビールがいいんだもん!
キャバで覚えた味です。
ビールだけはやめられません。
親がいないときしか飲めませんし。
ぐびりぐびりと一瞬でビールを飲み干した私は横目でちらりと冷蔵庫を見ました。
もう一本いいよね?
いいよね?
うへへへへへ。
だらしのない顔をしながら冷蔵庫ににじり寄る私。
「佐織お嬢様? いますか? ひゃッ!」
そんな私の耳に声が響きました。
声の方を見ると男の子がいました。
知っている顔でした。
山岡修二郎くんです。
父親の秘書の息子さんで私の付き人みたいなことをしています。
ちなみに彼は最後まで私の味方をした挙げ句にイスラエルの士官学校に強制留学させられました。
唯一と言ってもいい私の仲間です。
そんな彼は目を隠してました。
あ、そうか。パンツ一丁だった。
「恥ずかしがるから余計に恥ずかしい! ならば全裸で!!!」
私は胸を張ります。
オラオラ綺麗な裸だろ!!!
オラオラお前の好きなおっぱいだ!!! ほれほれ!!!
「服を着ろー!!!」
っちぇ!
私は脱ぎ散らかした服を着ました。
そして始まるのはおっ説教タイム。
「もう! 最近のお嬢様は変ですよ!!! いいですか! この名家である……」
呪文が私の頭を素通りしていきます。
あーあーあー! きーこーえーまーせーんー!!!
つうかね、こども見捨てて放り出す家のことなんか知らんがな。
そう思うと胸の中からなにかがこみ上げてきました。
「ぐげえええええええええっぷ!」
おっと、ただのゲップでした。
「うああああああああんッ! 酷い酷すぎる!」
泣き出しやがりました。
いじりがいのない性格ですね。
「私が大切に育てたお嬢様が……腹黒すぎていつか破滅するだろうと思ってたら、ある日突然オッサンになったなんてー!!! しかも腐ってるしー!!! うわあああああん!!!」
うるせえ!
余計なお世話だ。
しかたない。
慰めてやろう。
私はぽんっと修ちゃんの肩を叩きました。
「元気出せよ。な? おっぱいでもモムか?」
私がカタコトで話しかけながら親指を立てて胸を張ると、修ちゃんはギャン泣きし始めました。
どうやらなにか余計なスイッチを押してしまったようです。
しかたない。慰めてやらねば。
私はビールを差し出しました。
修ちゃんは私からビールを引ったくると一気に飲みやがりました。
「つらいことがあるなら、全部吐き出しちゃいなよ。ね?」
私はキャバモードで接客します。
「全部お前のせいじゃー!!!」
このあと滅茶苦茶説教された。
こうして復讐を成し遂げた私の一日は終わったのです。
◇
次の日。
「玲央那瑠斗が部屋から出てこない。何か知らないか?」
という連絡で朝から上機嫌な私がスキップしながら登校していると変なものを見ました。
「修ちゃん? あれなにかな?」
そこにはあのクソアマァ……ではなく、皆川 麗のクソビッチ、じゃなくて女の子がいました。
死ねばいいのに。
よく見ると核戦争後の東京でバギーに乗りながら両手に斧持ってヒャッハーしてそうな男たちに手をつかまれています。
「からまれてますね……」
修ちゃんがどうでもよさそうに言いました。
はて……?
前の周にはこんなイベントありませんでしたよね?
……はて?
確か……玲央那瑠斗のクソバカが麗ビッチが絡まれているとことを権力で助けて……二人が昆虫のようにくっつくと……
……あっ!
そのイベントじゃね?
そのイベントが発生する前に玲央那瑠斗をぶっ潰したから……
……あー。自作自演か。
玲央那瑠斗のバカ、襲撃を発注したまま忘れやがったな!
「で、汚嬢様どうされます?」
なんか今バカにされた気がします。
それにしても「どうされます?」って……
「あの女子生徒はお嬢様の仰られた敵ですよね? 放っておけばお嬢様の目的は達せられるかと」
あー……
あー……
私は頭をボリボリとかきむしりました。
よく考えてみましょう。
このまま放っておけば私の復讐は完遂されるのでしょうか?
それは違います。
私は自分の手で連中を地獄に墜としたいのです。
私の手でやるから意味があるのです。
……つまりあのモヒカンは人の獲物を横からかっさらおうとする敵です。
結論を出した私が駆出そうとするとモヒカンがビッチを車に押し込みそのまま走り出しました。
くっそ! こっちも足を手に入れねば!!!
私は周りを確認します。
なにかないか!!!
コンビニが目に入りました。
ウンコ座りをするリーゼントのヤンキーがいます。
そしてその横に……
「バイクヨコセ!」
私はヤンキーの胸倉を掴んで揺すりました。
「っちょ! な、なに? え?」
「女子サラワレタ。バイクヨコセ! ジャナイト殺ス!」
私は片言でまくし立てます。
兄ちゃんが涙目で鍵を差し出すと私はそれを引ったくりました。
「修チャン! 乗レ!!!」
「お嬢様! 人間辞めて……ぎゃあああああああああッ!」
私は修ちゃんがケツに腰掛けたのを確認すると問答無用で発進しました。
◇
そこは廃工場。
ヤンキーのアジトの定番です。
「お、おう! これからどうするよ!」
モヒカンが言いました。
このバカどもはなにも考えていませんでした。
「お、おう……どうする?」
こちらもノープランでした。
お友達と同じように頭の中は空っぽです。
「あはははははははは!!!」
そこに私の笑い声が響きました。
「え?」
「え?」
バカが顔を見合わせました。
ガッシャーン!
そこに窓ガラスを破り私のバイクが中に入ってきたのです。
あははははははははははは!!!
「それは私のお(都合により略)」
女子にあるまじき下ネタでポーズをとる私。
ネタが古い?
キャバクラではおっさん向けのネタを仕入れないと指名が取れないんですよ!
私はぼきりぼきりと指を鳴らしました。
そして大声で言いました。
「修ちゃん。やっておしまいなさい!!!」
修ちゃん。
生ゴミを見るような視線を人に向けるのはおやめなさい。
感じ悪いですよ。
「ざけんなあああああああああ!!!」
あ、修ちゃんがもたもたしてるからモヒカンがキレた。
そんなモヒカンの襟を掴むと、修ちゃんは華麗に反転、モヒカンを腰にのせてキレイに放り投げました。
きゃー! かっこいい!!!
私の方にもモヒカンがやってきました。
「お嬢様!!!」
修ちゃんが言いたいことはよくわかります。
「殺すな!」ですね。はいはい。
私はモヒカンのパンチをするりとよけると下から潜り込み、手を突き出しました。
カウンターで入った私の掌底、その勢いを生かしつつ一歩踏み込みます。
頭だけが後ろに持って行かれ、残ったモヒカンの体が跳ね上がりました。
そして私はそのままモヒカンの頭を床にたたきつけました。
お嬢様キャラは昔から古武道の達人と決まっているのです。
はい終了。
「うっしっしー♪」
こうして私のイレギュラーは終わったのです。
あとで修ちゃんとか全方面から怒られたのは内緒です。
◇
数日後。
おかしいです……
なにかがおかしいです……
「お姉様♪」
おかしいです。
私はこんな結末望んでいません。
うっとりとした目で私を見るのは麗のバカです。
なぜか腕を組んできます。
私はよどんだ目で修ちゃんの方を向きました。
「……修ちゃん」
「なんですか汚嬢様」
「もうお嫁に行けない」
「かなり前に気づくべきだったかと」
酷い。
イスラエル行きは防いでやったのに!!!
こうして私は破滅の危機を乗り越えました。
ですが問題があります。
この性格をどうにかしないとならないのです。
じゃないともらい手が……
でもそれはめんどくさ……
私は修ちゃんに微笑みかけました。
「じゃあ修ちゃんもらってくれる?」
「絶対に嫌です。命がいくらあっても足りません」
あとで殴る。
「お姉様! 私がもらって差し上げます!!!」
てめえには聞いてねえ!!!
「お姉様ぁ!!!!」
るっせええええええええええッ!!!
こうして私の二周目は一周目と違う結末を迎えることになりました。
男には縁がありませんけどそれはそれで幸せです。
満足する私に修ちゃんが言いました。
なぜか顔が真っ赤です。
「まあ、もらい手がなかったら考えてやります!」