茶髪
日常にある出来事で、ちょっとした違和感を感じたことに想像を巡らせた結果、実は非常に怖い物なのかもしれない、と感じるような内容を超ショートで書いてみた作品です。もとはこれも200字上限でした。
今日も、僕は一年生になったばかりの妹と一緒に学校に行くんだ。
家から学校までは、だいたい二時間ちょっとかかるんだよね。夏はいいけど、冬はまだ真っ暗のうちに家をでなきゃいけないから大変だよ。本当に寒いからね。
友達は山を登ったり降りたりして登校するらしいけど、僕らは田んぼの中を歩いていけばいいだけだから、まだ楽かもしれない。
妹も一緒になって歩くんだけど、高学年の僕と、一年生の妹だと、歩くスピードも違うし、すぐ疲れちゃうんだよね。でも、置いていくわけにもいかないし、一生懸命ついてこようとしているから、文句も言えないよ。それに、妹は僕が「がんばれ!」と声をかけると「お兄ちゃんがそういうなら頑張る!」と言って、元々すぐに赤くなる顔を、本当に真っ赤にして必死になってついてくるくらい、すごく素直だから、すごく可愛い。ただ、僕が行こうとするところには、いつも付いてこようとするものだから、同級生と遊ぼうとすると、ちょっとだけあしでまといになったりするし、家の近くの幼馴染とは遊びにくいんだけど。でも、幼馴染も妹のことが可愛いと思ってくれているようで、連れて行っても嫌な顔はしないのはありがたいよ。
この先の、田んぼの中にぽつんとある家から、いつも銀色の自転車がでてくるんだ。近所の高校のお姉ちゃんだ、って先生が言ってた。
何でそんなこと聞くんだ、って先生がニヤニヤしながらきくんだ。肩ぐらいの茶色い髪が近所の馬の尻尾みたいだから、面白いんだって答えたけど、不思議と顔が熱くなったんで、後で顔をごしごし洗ったよ。
お姉ちゃんは、今日もいつもと同じ時間に同じ格好で家から出てきたよ。お姉ちゃんはいつも、こっちを見るとにっこりとして手を振ってくれる。僕はいつも顔を背けちゃうんだけど、妹はお姉ちゃんに向かって両手を振って喜んでいるよ。妹の能天気さがうらやましくも思うけれども、僕にはやっぱり恥ずかしくてできないな。
今日もお姉ちゃんは僕達に手を振ってくれた。そのあと銀色の自転車はどんどん遠ざかっていく。
「あたしも、あれ欲しい……」
「確かに学校まで行くのは楽だろうけどな。でも、だめだよ。学校で禁止されてるだろ? それにまだお前は補助輪はずれてないじゃないか」
妹はいつもみたいに駄々をこねたんだけど、僕は叱って無理やり学校に連れて行った。
数日後、妹はお姉ちゃんの真似をして髪の毛の色を茶色にしたんだ。ひょっとしたら妹の奴、僕がお姉ちゃんの事好きなの気づいたかな。でも、妹の髪の毛は少し変。付け根に黒い塊が沢山こびりついてる。妹は気にならないみたいだけど。
そういえば今日もお姉ちゃんを見かけないなあ。
小学生の妹ができる筈もないし、やるはずもない。でも、いくつかの状況は、妹がしたことを如実に語っている。無理だろ、できる筈もないだろ、でも……、もしできたのならどうやって? そんな想像を膨らませてくれる作品になっているかどうか。




