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厄除け効果の程


 厄除け効果のあるマカライトよ。

 本当に、厄除けやら魔除けやらの効果はあるのかい。もし厄除け・魔除けの効果があるのなら、私の目前に迫るトラックは何なんでしょうか。歩道の信号は確実に青である。それならば、車道の信号は絶対に赤であるはず。なのに、なぜトラックは歩道を横切ろうとしているのでしょうか。

 答えは1つ。居眠り運転である。


「っ!」


 私は咄嗟に目を強く閉じた。

 そして、私の身には、この世の者とは思えない衝撃が襲う。はずである。しかし、いくら待てども衝撃などは訪れない。それでも、私は恐ろしくてなかなか目を開けることができない。体感時間にして、およそ1分ほどしたところで、私はようやく目を開けることができた。


「…あれ?」


 目を開けると、そこにトラックはなかった。もっと言えば、歩道も信号も自動車も人もいない。あるのは、爽やかな風になびく草を湛える野原に、その野原を囲う木々。

 夢で見た、場所だった。


「てことは、ここは夢?」


 記憶はないが、もしかして私はトラックにぶつかったのではないだろうか。そして、私は今、生死の境をさまよっている最中で、夢を見ているのかもしれない。または、ここはあの世で、私はすでにお陀仏してしまったのかもしれない。


「もしあの世なら、ここは天国?それとも…」


 地獄。だったら激しく嫌だ。

 落ち着こう私。地獄に落ちるほど悪い事はしていないはずだ。そりゃ、常日頃から善人と思われるような行いもしていない。けれど、神様仏様に誓って犯罪などには一切、手を出した事はない。だから、地獄ではないはずだ。天国でなくても良いので、地獄だけはない方向でお願いします。はい。


「天国か地獄かはさておき…」


 私はいったん、地獄オア天国討議は置いておく。そして、辺りを見回して誰でもいいので人がいないかを探す。しかし、いない。夢であった子供の姿もない。一体どうするべきか頭を捻る。

 1、この場を動かない。メリットは、不測の事態が起きる可能性が低いこと。この場から動かないのだから、それは当たり前であるが。デメリットは、状況打破には消極的であること。運よく誰かがここを訪れてくれればいいけれども、そうそう人がくる事もないだろう。

 2、野原から出てみる。メリットは、人に会う確率が上がり現状況を打破する可能性が上がる。夢の中ではあるが、ここには子供がいた。という事は、この近くに人が住む場所があると思われる。デメリットは、不測の事態に陥る可能性も上がる。野獣や盗賊などに出会ったら、私にはどうしようもない。隠れてやりすごす事ができればいいが、獣の場合には臭いなどでばれてしまうだろう。


「選択肢2つは、1番難しい…」


 お得意の消去法は、大抵2つまで絞る事ができる。しかし、2つから1つに絞るのには、勉強で身に着けた知識を使う必要がある。つまり、最終的に正解をえるために2つから1つを絞るのは、自身の実力によるものだ。

 ただし、それは勉強の場合だ。

 今は勉強ではなく、自分の状況についてだ。知識でどうのこうのできる問題ではないのだ。勉強の答えのように、選択肢の中にたった1つの答えがあるとうものではない。考え出した選択肢の両方共が答えかもしれない。あるいは、両方とも答えではないのかもしれない。あるいは、別の選択肢があるかもしれない。あいにく、私には第3の選択肢は思いつかないが。


「…ここにいても仕方ないかー」


 私の導き出した答えは、2。つまり、森の中へ入る。

 私の特徴の1つとして、考えても分からない問題は素直に諦めて次に進む。もちろん、2択まで絞った選択肢の片方にマークをするのは忘れない。ちなみに、どっちにマークするかは完全に私の勘である。


「この森、どこまで続いてるかな…」


 そろそろと足を森へ踏み出した私は、きょろきょろと森を見回す。しんと静まる森には、小鳥のさえずりが響いている。とりあえず、恐ろしそうな動物が近くにいない事を確認する。そして、恐る恐る足を動かし、私は先へ進んで行く。木々ばかりで、あまり光景は変わらない。まるで、同じところをぐるぐると歩き続けているように感じる。森の中で遭難が起こるのは、このように景色が変わらないせいかと1人り変に納得する。


「誰かいませんかー」

「誰を探している」

「や、特に別に誰とは…ん?」


 歩き始めてそんなに経っていないものの、ダレてきた私は返答など期待せずそう声を上げる。しかし、予想外に私の言葉に返答あり、私は声のした方へと顔を向けた。

 そこには、すこぶる顔の良い男性がいた。

 艶やかな紺色の髪とその色と同じ瞳。目は切れ長で鼻はすっと高く、唇はやや薄い印象を受ける。また、肌は白くて背やスタイルはモデルさんのようである。


(冷たい印象の人だなー)


 そんな勝手な評価をして、私はじっとその男性に視線を向ける。対する男性も、私をじっと見下ろしている。お互い無言の中で、私は夢で出会った子供との事を思い出す。子供と対面した時も、こんな風に無言でお互いを見つめていた。


「貴様何者だ?何が目的だ?」

「や、あの、えーと」


 何となく、問いかけも子供と似ている気がする。子供と同レベルの質問と思うと男性がなせけないが、この場合は子供のレベルが高いのだろう。しかし、ここの人はまず目的を問うのが挨拶となっているのだろうか。謎である。


「おかしな話だと思うでしょうが、気が付いたらここにいたんですよ」


 そう男性に言葉を返してから、このセリフって子供に言ったものと同じだという事に気が付く。私のボキャブラリーはかなり低い。その事実に、なんかがっくりしてしまう。


「そんな馬鹿な話があるか」

「ですよねー」


 男性の言う事はもっともである。仮に私が公園かどこかで、怪しげな人と出会ったとしよう。そして、その人に、私がどうしてここにいるか尋ねて、気が付いたらここにいたと返されたとしよう。私の認定は、かなり変な人である。恐らく、この男性も私の事を変な人と考えているだろう。それか、頭のおかしな人だと。

 何にしても碌な印象を与えてないだろう。


「正直に吐け」

「正直に吐いてます」


 苛々とした様子の男性が、私に強く言葉を向けてくる。そんな男性に、私はそう言葉を返す。ついつい何も考えずに言葉を返してしまい、男性の表情が険しくなった。美しい人が怒ると恐ろしいのは、正しかった。


「俺を馬鹿にしているのか?」

「どちらかというと貴方が私を馬鹿にしているのでは?」


 こうしてまた、私は何も考えずに言葉を返してしまう。考え事をしていると、つい口が勝手に動いてしまうのだ。嫌な癖だが、昔からそうなのでもう直せないだろう。南無。


「…お前、俺を怒らせたいようだな」

「すみません、ちょっと口が勝手な事を」

「言い訳をするな」


 ずんずんと私との距離を縮めてくる男性に、私は盛大に身を引く。いっそ背を向けて逃げ出してしまおうかとも考えるが、男性の腰に武器らしきものが吊るされているのに気が付きたので止める。背を向けた瞬間、ばっさり切られてしまったら嫌すぎる。


「いい加減に…ん?」


 怒りの表情を浮かべていた男性が、私へと手を伸ばす。しかし、その手が私に触れる前に、男性の行動がぴたりと止まる。そして、男性の視線は私の顔ではなく、首元辺りに向いている。一体どうしたのかと私が首を傾げると、男性は突然、私のネックレスのペンダントを摘み上げた。


「これは…」

「…」


 真剣な表情でペンダントを見つめる男性。

 正直に言いましょう。とても格好良いです。しかし、同時に男性慣れなんぞしていない私の心臓に悪いです。ペンダントをよく見ようとする男性の顔は、嫌でも私の顔と距離が近くなってしまう。そのため、男性のお美しい顔が良く見えてるのだ。そして反対に、男性からも私の表情は丸見えだろう。あいにく、特別な美しさも可愛らしさも持ち合わせていないので、男性の視線がこちらに向かないかと内心恐々としていた。


「お前、この首飾りをどこで手に入れた!?」

「ひえぇ!ごめんなさいこっち見ないで下さい!」


 私の恐れていた事が起こった。

 突然、男性はペンダントから私の顔へと視線を向けた。かなりの至近距離で、私と男性の視線が交わる。それに私が平常心でいられるわけもなく、声を上げて男性からさらに身を引いた。自然と、男性の手からペンダントが離れる。


「その態度、怪しいな。まさかどこから盗んだものなんじゃ…」

「失礼な。これは正真正銘、私のですよ」


 男性の言葉に、私はむっと表情を歪めて、そう言葉を返す。しかし、あまり強く言えない日本人代表である。


「どうしてそんな事を聞くのですか?このペンダント、特別な物ではないかと…」

「ぺんだんと?という名前のか。その首飾りは」

「は?」


 何やら今、男性と話が少し噛み合わなかった気がする。もしや、ペンダントという言葉を知らないのだろうか。首飾りでも間違いはないが、いまどきネックレスを首飾りなどと言う人はそう相違ない。まれにマフラーやストールを襟巻きと言う人はいるが。おばあちゃんとかおじいちゃんとか。

 ちなみに、ネックレスは首に着ける装飾品を指し、ペンダントはネックレスに吊るされている飾りの方を指す。


「…私の仕えている人が身に着けている装飾品と、同じ物だ」

「はぁ」

「その方は、それを贈り物だと言った」

「はぁ」


 突然語り出した男性に、私は気の抜けた声で相槌を打つ。男性の意図が全く分からない。とりあえず、私は男性の話を聞く。男性の話を要約するとこうである。

 もし私がその贈り物の主ならば、男性の主に会わせる。しかし、私が本物の贈り物の主から奪ったのならば、捕えて誰から奪ったのか吐かせるつもりでいるらしい。包み隠さず言う男性に、この人、駆け引きは絶対に苦手だろうと逸れた考えが頭をよぎる。


「で、どうなんな?」

「ですから、私の物ですって」

「証拠は」

「そんな事言われても…」


 自分の物を自分の物だと、どう証明すればよいのだろうか。腕を組んで悩む私と厳しい顔を浮かべる男性。とても重たい空気が、私たち2人の間に落ちている。


「アビエル、どうした?」


 重たい空気を切り開くように、第3者の声が届く。それは、男性の後方から聞こえており、男性と私はその声の方へと視線を向けた。

 そこには、これまたすこぶる顔の良い男性がいた。

 イケメン率高いな。



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