本編その4
フラテルは客間の前に待機している召使い(メイドというらしい。エーファが趣味で雇っている)の申し出を断り、自ら取っ手に手をかけ客間の扉を開けた。
客間にはすでにエーファと“彼”がいた。
“彼”は白金に近い白の服を着ている。服の所々にはつつましくはあるが、美しい装飾が施してあり、ぱっと見ではフラテルのように軍服と見間違えるかもしれないが、再度見てみると動きやすさも考慮してある上品な服だった。
対して“彼”の前にいるエーファは変わらぬローブ姿で、変化といえばフードを外し胸元をはだけさせているくらいだった。
「ふ、フラテルちゃん」
客間に入ってきたフラテルにエーファがおずおずと声をかける。
いつもと様子が違うエーファの様子に首をかしげ、何かしたかなと客間に入ってからの自分の行動を見直すが、ドアを音を立てて開けたわけでもないし何よりまだ入ってきたばかりだと思い、なら原因はエーファのほうかなと客間を見る。
「装飾品はいつもの通り。
置物も変わりはない。
壁に掛けてある絵は……、毎日変わるからこれもなし。」
エーファ自身かな、と考えエーファを見る。しかしエーファはやはりローブくらいしか変化はない。そこから目を右へ動かし、“彼”のほうを見る。しかし“彼”も、新品のように綺麗な白い服を着ているくらいだった。
「新品みたいにきれいな……、っ!」
フラテルがはっという顔をしてエーファを見ると、エーファはさっと目をそらした。
フラテルはもう一度“彼”の服装を見る。彼の服には灰ひとつ積もっていなかった。灰とはフラテルのかけた灰のことで、もちろん払った程度で落ちるものではない。それが“彼”の服からはすべて払われ、さらには新品と見間違うほどきれいにされている。もちろん髪や顔も綺麗になっていた。
フラテルは無言で手に持った服を見つめる。
フラテルが持っている服はもちろん原因は彼女にあるのだが、汚れた“彼”の服を着替えさせるもので、エーファに持ってくるよう頼まれたものである。
「浄化の魔法使えば簡単だなって思ったから、つい。」
エーファが弁解を始めた。
「ほら、魔法だったらわざわざ着替えてもらわなくてもいいし、えぇと、すぐすむよね。だから……」
しかしそんな弁解はフラテルには聞こえていない。
彼女は持ってこさせられたのにいらなかったということと、それでも元々の原因は私にあるんだしという気持ちのはざまで、どちらをとるかで揺れていた。
「…………、てへっ」
選択肢は一つになり、フラテルのハートに火がついた。ついた火は怒りの火だったが。
フラテルの持った服が紅い光を放つ。
「その服はだめっ」
エーファが手を振り、青い光を飛ばした。
光はまっすぐ服へと走り、紅い光を掻き消した。