本編その2
数分後、その部屋にはフラテルと、もう一人、女が立っていた。
その女性は名前はエーファというローブを纏っていた人物で、先程フラテルの前で見せた失態を無かった事のように扱うためか、異世界人転送の魔法を使ったという状況なのでシリアスな空気にしようとしているのか、頑張って大人びた雰囲気を出そうとしているが、今更取り消せるわけもなく場の空気はどこか抜けたものとなっている。
「!!」
煙の中に黒い影が走った。
真っ先に反応したフラテルが煙の方を向き、突然の事態に対応できるよう、魔法の発動のための媒体を探しにかかる。しばらくあたりを見た後、近くの石造りの台の上から、今度は朱色の煌びやかな紐でまとめられた羊皮紙の束を手に取る。
その様子を横目で見ていたエーファはまたレポートを燃やされたら困ると慌てて煙のほうへ向きなおる。
煙を払うため魔法を使おうとしているエーファの後ろでは、先ほど発火した羊皮紙が無残にも放置されているのだが、放置されている。
「――――――」
エーファの足元に円の形をとって現われた光が煙へと糸のように伸びる。そろそろと進んでいた光はやがて煙の周りにたどりつき、一定の間隔をあけ何重かの円形に収まる。
「――――――」
次の一声で光は円内部の空気をもとの状態へと浄化し、それとともに吐き気を感じさせる臭いも薄れ、消えていった。
「さてと……」
煙のはれた場所には人が倒れていた。
見たところ男なのだが、この世界での平均的な男性より華奢な異世界人は、ごつごつとした靴を履いていた。過酷な場所を歩くような靴なのだろうが、足首までしかなく用途が確定できないという印象を与えられた。身に纏っているものは、彼女らのような、魔術師が使うようなローブでもなく、一般的な庶民が着るような服でもなく、例えるなら軍の正装のようだった。しかし、この世界の国には白い服の軍隊は無い筈で、新しくできた東の方の国の軍が白い服を着ているという話もない。その異世界人の頭髪も、既に神話上の存在でしかない種族以外には見たことのない、黒色だった。
「おーい、大丈夫? 起きてくれるー? …………フラテルちゃん、起してみて」
フラテルは突如かかった声に近くに紐と一緒にあった灰をつかむと異世界人にまいた。
しばらく前までとある女性の『レポート』という名の努力の結晶だったものが少し熱を残した灰として降り注ぐ。
「フラテルちゃん!?」
「え? あ、ああ!!」
同居人の起こした行動に驚いたエーファがあげた声に我に返り4度目の灰撒き作業に及ぼうとした手を理性で止め異世界人を見るフラテル。
既に彼の体は灰まみれだ。
装飾で綺麗だった白い服は見る影もない。
フラテルの行動に驚き、固まったエーファと、「どうしよう、灰を払わなきゃ。ど、どうしよう」と慌てるフラテル。
「うぅ……」
白から灰に染まった異世界人が呻き声をあげ、
「げほっ、うえっ」
咳き込む。
そしてフラテルとエーファの前で異世界人が体を少し起こし、目を開けた。
あれ?いつぶりの投稿だ?