~日常~
何が彼を動かしたのか、その疑問への答えは静寂からくる恐怖だった。
しかしそれはただのきっかけであって、その後の行動の原動力となったのは彼の幼馴染の身を案じてのことだった。
草薙世奈はまさに疾駆と呼ぶべき速さで走り、靴を履き替える。
そして、普段の彼ならば面倒くさがってゆっくりと上るであろう階段を3段とばしで駆け上がり、廊下を走る。
教室が見えた。
彼は教室の前に着くや否や引き戸である教室のドアを力強く開ける。
バァァン
そんな音を立ててドアが開く。
そして彼は幼馴染の名前を……
「かえ――――「テスト中よ! 静かにしなさい!」
叫ぶことができなかった。
テスト中に教室に乱入してしまった彼は、教室にいた先生の一言に驚き、一瞬の間に蛇に睨まれた蛙のごとく固まってしまう。その隙を狙った先生のチョーク攻撃がものの見事に彼にヒットした。そしてドアを開けたときの音で集中力が途切れてしまった、入り口近くの生徒の報復の一撃が決定打となり、彼は廊下の反対側まで押し戻される。
その後、彼が乱入したテストが終わるまで、先生の説教が続いたのだが、チョークに意識を奪われた彼の耳には何も入っては来なかった。
その日のテストがすべて終わった後、教室に残っている生徒は4人だった。
『木師楓とゆかいな仲間たち』と呼ばれている四人組は雑談にいそしんでいた。
「にしても、今日の遅刻は凄かったな。うん、なんか凄かったぞ」
ゆかいな仲間α(♂)が草薙世奈に話しかける。
「まさかテスト中に来るとは思いませんでした。一生来なくてもよかったんですよ?」
と、テスト中にやってきた草薙のせいで集中が途切れた、と憤慨中のゆかいな仲間β(♀)が額に青筋を浮かべながら話に乗ってきた。
話しかけられたゆかいな仲間γ(草薙世奈)はゆかいな仲間βの言葉にばつが悪そうに頬を掻く。ゆかいな仲間βが敬語で話すときはかなり怒っている、ということを自分の体で体験している彼は心なしか青ざめている。
そのとき、ゆかいな仲間αは何か思い出したのか、話題を変える。
「そういえばさ、世奈は何言おうとしてたんだ?」
「え?」
ゆかいな仲間γ(草薙世奈)は突然変わった話題に戸惑いながら返事をする。
「いや、あの時だよ、テストに乱入した時。ドアをバァァンって開けて何か叫ぼうとしてたじゃん」
「あ、あれか……、あれはな…………」
ゆかいな仲間γ(草薙世奈)は聞かれたくないところだったのか、気まずい空気を出していた。
しかしそんなことは気にせず、ゆかいな仲間βが何かを思い出したかのように言う。
「そういえば、私、席が近かったから聞こえたんですけど、確か『楓』と言っていたような気が」
それを聞いたゆかいな仲間αの目が光る。
そしてゆかいな仲間αは意地が悪そうにニヤニヤと笑いながらゆかいな仲間γ(草薙世奈)に詰め寄る。
「ほうほう、まさか世奈君、楓さんの名前を呼ぼうとしたのですかな?」
「いや、そんなことは……」
「その反応は図星のようですな」
「くっ!!」
「楓、聞いたか? 世奈が――――」
「おいまてゆかいな仲間α」
「なんだよゆかいな仲間αって」
「何が望みだ」
「…………」
「…………?」
「………………」
「な、なんだよ、いきなり黙るなよ……」
「なにこの人、イタイ」
「っ!? てめぇ!!」
いつものごとくにぎやかに騒いでいるゆかいな仲間αとゆかいな仲間γ(草薙世奈)を尻目に、ゆかいな仲間βはすやすやと眠っている木師楓の頭を撫でていた。
満足そうに頭を撫でていたゆかいな仲間βだったが、ふと時計を見てしまった、という顔をする。
「ゆかいな仲間αさんと世奈さん、もう時間が時間ですので、楓ちゃんを家に送ってあげてくださいな。もう少しで電車に間に合わなくなりますよ。」
その言葉に、いかにもといったようにゆかいな仲間αは頷き、ゆかいな仲間γ(草薙世奈)に言う。
「お前が行け」
ゆかいな仲間γ(草薙世奈)が何かを言う前にゆかいな仲間βが言う。
「そうですね、私たちだと家が反対側ですし、世奈さんが適役でしょうね」
「いや、お前らの家は楓と同じ方向だろ。というかまだ5時だぜ? 最終便はまだ先だぜ。いや、そもそも楓って学校来るのに電車使ってないだろ」
「「いいからいいから」」
ゆかいな仲間αとゆかいな仲間βの言葉に押し切られ、ゆかいな仲間γ(草薙世奈)は渋々、木師楓を家に送ることとなった。
少し早めに出すことができました
プロローグはまだ続くようです
次こそプロローグを終わらせます
引き続きよろしくお願いします